商事留置権

(平成23年12月15日最高裁)

事件番号  平成22(受)16

 

この裁判では、会社から取立委任を受けた約束手形につき

商事留置権を有する銀行が,同会社の再生手続開始後の取立てに係る

取立金を銀行取引約定に基づき同会社の

債務の弁済に充当することの可否について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

(1) 留置権は,他人の物の占有者が被担保債権の弁済を受けるまで

目的物を留置することを本質的な効力とするものであり(民法295条1項),

留置権による競売(民事執行法195条)は,

被担保債権の弁済を受けないままに目的物の留置を

いつまでも継続しなければならない負担から留置権者を解放するために

認められた手続であって,上記の留置権の本質的な効力を

否定する趣旨に出たものでないことは明らかであるから,

留置権者は,留置権による競売が行われた場合には,

その換価金を留置することができるものと解される。

 

この理は,商事留置権の目的物が取立委任に係る約束手形であり,

当該約束手形が取立てにより取立金に変じた場合であっても,

取立金が銀行の計算上明らかになっているものである以上,

異なるところはないというべきである。

 

したがって,取立委任を受けた約束手形につき

商事留置権を有する者は,当該約束手形の取立てに係る

取立金を留置することができるものと解するのが相当である。

 

(2) そうすると,会社から取立委任を受けた約束手形につき

商事留置権を有する銀行は,同会社の再生手続開始後に,

これを取り立てた場合であっても,

民事再生法53条2項の定める別除権の行使として,

その取立金を留置することができることになるから,

これについては,その額が被担保債権の額を上回るものでない限り,

通常,再生計画の弁済原資や再生債務者の事業原資に充てることを

予定し得ないところであるといわなければならない。

 

このことに加え,民事再生法88条が,

別除権者は当該別除権に係る担保権の被担保債権については,

その別除権の行使によって弁済を受けることができない

債権の部分についてのみ再生債権者としてその

権利を行うことができる旨を規定し,同法94条2項が,

別除権者は別除権の行使によって弁済を受けることができないと

見込まれる債権の額を届け出なければならない旨を規定していることも考慮すると,

上記取立金を法定の手続によらず債務の弁済に

充当できる旨定める銀行取引約定は,

別除権の行使に付随する合意として,

民事再生法上も有効であると解するのが相当である。

 

このように解しても,別除権の目的である財産の受戻しの

制限,担保権の消滅及び弁済禁止の原則に関する

民事再生法の各規定の趣旨や,経済的に窮境にある債務者と

その債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し,

もって当該債務者の事業又は経済生活の再生を図ろうとする

民事再生法の目的(同法1条)に反するものではないというべきである。

 

したがって,会社から取立委任を受けた約束手形につき

商事留置権を有する銀行は,同会社の再生手続開始後の取立てに係る取立金を,

法定の手続によらず同会社の債務の弁済に充当し得る旨を定める銀行取引約定に基づき,

同会社の債務の弁済に充当することができる

 

(3) 以上によれば,上告人は,本件取立金を

本件条項に基づき本件当座貸越債務の弁済に

充当することができるというべきであり,

上告人による本件取立金の利得が

法律上の原因を欠くものでないことは明らかである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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