商品取引所法

(平成19年7月19日最高裁)

事件番号  平成17(受)2292

 

この裁判では、

商品取引所の会員に対して取引を委託した者が

当該会員に対して有する債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償債権は,

商品取引所法(平成16年法律第43号による改正前のもの)97条の3第1項所定の

「委託により生じた債権」に含まれるかについて

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

(1) 受託業務を行う商品取引員は,商法上の問屋であり,

委託者との間においては委任に関する規定が

準用されるから(商法552条2項),

商品取引員は,受託業務を処理するに当たって受け取った金銭

その他の物を委託者に引き渡さなければならず,また,

委託者のために自己の名で取得した権利を

委託者に移転しなければならない(民法646条)。

 

したがって,商品取引員は,商品市場における取引につき,

委託者から預託を受けた金銭,有価証券その他の物及び

委託者の計算に属する金銭,有価証券

その他の物(以下「委託者資産」という。)を

委託者に引き渡すべき義務を負うものであり,

委託者において,商品取引員に対し,商法等の規定により

委託者資産と認められるものの引渡しを請求する債権

(これに係る利息及び遅延損害金債権を含む。

以下「委託者資産の引渡請求債権」という。)が,

「委託により生じた債権」に該当することは,

明らかというべきである。

 

(2) 被上告人は,これに加えて,受託業務と相当因果関係がある

債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償債権も,

「委託により生じた債権」に含まれると主張する。

法97条の3第1項は,委託者が,当該会員に係る

受託業務保証金について,直接取引所に対し,

その払渡しを請求することを認めるものであるが,

受託業務保証金は,上記のとおり固定部分と

流動部分から成っているところ,法及び受託業務保証金規則

(平成17年農林水産・経済産業省令第3号による廃止前のもの)

の規定に照らすと,受託業務保証金の大部分を占めるのは流動部分であり,

流動部分は委託者が会員に預託した委託本証拠金の額に見合うものであって,

会員に対し受託業務保証金を取引所に預託させるのは,

委託者資産を構成する委託本証拠金を取引所に分離保管させ,

委託者の委託本証拠金を保全するという趣旨によるものと解される。

 

また,法136条の15は,商品取引員は,

受託業務により生じた債務の弁済を確保するため,

委託者資産の価額に相当する財産については,

商品取引員のその他の財産から分離して

金融機関へ預託する等の措置を講ずることにより,

これを保全しなければならない旨を規定するが,

受託業務保証金の流動部分については,

それが別途取引所に預託されていることから,

分離保管の対象から除外しており(商品取引所法施行規則

(平成17年農林水産・経済産業省令第3号による全部改正前のもの。

以下「法施行規則」という。)41条1項7号),

このことからも,受託業務保証金の預託が委託者資産を構成する

委託本証拠金を保全する趣旨のものであることが明らかである。

 

したがって,取引所による受託業務保証金の払渡しは,

委託者資産を構成する委託本証拠金の引渡しの実質を有するものである。

 

以上のように,取引所の受託業務保証金の払渡しは,

当該会員に係る受託業務保証金という額に限度のあるものの払渡しであり,

委託者の委託本証拠金の引渡しの実質を有することからすれば,

「委託により生じた債権」は,委託者資産の引渡請求債権を

指すものと解するのが相当である。

会員の債務不履行又は不法行為に基づく委託者の損害賠償債権は,

たとえ会員の受託業務と相当因果関係を有するものであっても,

委託者資産を構成するものとはいえない。

上記の損害賠償債権も「委託により生じた債権」として

受託業務保証金の払渡しの対象とすれば,その分,

当該会員に対し商品市場における取引を委託した

他の委託者の委託本証拠金の引渡請求債権を犠牲にすることになりかねず,

委託本証拠金を保全するという受託業務保証金預託の

制度の趣旨に反することになる。

 

したがって,上記の損害賠償債権は,

「委託により生じた債権」には該当しないと解すべきである。

 

なお,法136条の22は,商品取引員に,

先物取引の取引高に応じた商品取引責任準備金の積立てを義務付け,

商品取引責任準備金は,先物取引の委託を受けること等に関して

生じた事故であって主務省令で定めるものによる損失の補填に

充てる場合のほか,使用してはならない旨を規定している。

 

このように,法が,先物取引の委託を受けること等に関して

生じた事故の損失の補填のために,商品取引員の

自己資金による商品取引責任準備金の積立制度を別途用意していることも,

上記の損害賠償債権が,委託本証拠金の引渡しの実質を有する

受託業務保証金の払渡しの対象債権とならないことを

裏付けるものということができる。

 

(3) 次に,法97条の11第3項は,商品取引員が受託に係る

債務を弁済することができない場合の指定弁済機関による

弁済について規定しているが,同項にいう

「受託に係る債務」とは,法97条の3第1項の

「委託により生じた債権」を受託者である商品取引員の側から

規定したものであり,両者は表裏の関係にあって

その範囲を同じくするものであることが明らかである。

 

法97条の11第3項の規定に基づき指定弁済機関が

委託者に直接弁済する契約弁済額は,流動部分の2分の1

(法97条の12第2項,法施行規則17条及び基金協会の

弁済業務規程11条)であって,委託本証拠金の

2分の1に見合うものであり,会員が取引所に預託すべき

受託業務保証金の額は,契約弁済額を控除した額となるのであるから,

上記弁済も,取引所による受託業務保証金の払渡しとあいまって,

委託者に委託本証拠金を引き渡すという実質を有するものである。

 

したがって,法97条の11第3項の規定に基づき

委託者が指定弁済機関に対し弁済を請求することができる債権も,

委託者資産の引渡請求債権であり,

債務不履行又は不法行為による損害賠償債権を

含むものではないと解するのが相当である。

 

(4) なお,指定弁済機関は,任意弁済契約及び

分離保管弁済契約を締結している商品取引員の委託者に対しては,

契約弁済額についての弁済のほかに,

任意弁済契約及び分離保管弁済契約に基づく弁済を行うが,

これも,委託者資産の額の範囲内で行うものであって

(基金協会の弁済業務規程11条及び11条の2),

受託業務保証金の払渡し,契約弁済額の弁済とあいまって,

委託者に対し委託者資産を

引き渡すという実質を有するものである。

 

債務不履行又は不法行為による損害賠償債権についても

弁済すべきものとすると,その分,当該商品取引員に対し商品市場における

取引を委託した他の委託者の

委託者資産の引渡請求債権を犠牲にすることになり,

指定弁済機関による弁済の制度の趣旨に反するのである。

 

(5) 以上のとおりであるから,委託者が,

取引所に対し受託業務保証金の払渡しを請求し,

指定弁済機関に対し弁済を請求することができる債権は,

結局のところ,委託者資産の引渡請求債権であって,

債務不履行又は不法行為による損害賠償債権を

含むものではないと解するのが相当である。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

判例をわかりやすく解説コーナー


スポンサードリンク