商法(平成2年法律第64号による改正前のもの)486条1項にいう「営業ニ関スル或種類若ハ特定ノ事項ノ委任ヲ受ケタル使用人」

(平成17年10月7日最高裁)

事件番号  平成14(あ)1431

 

 

最高裁判所の見解

(1) 被告人は,昭和52年,不動産業等を目的とする

株式会社協和綜合開発研究所(以下「協和」という。)を設立して

その代表取締役社長に就任し,オーナー経営者として

東京都中央区銀座1丁目の土地の地上げや岐阜県のゴルフ場の

開発事業等を手掛けていたものであるが,

雅叙園観光株式会社の連帯保証で約270億円を融資していた A が,

同社振出の手形を簿外で濫発した末,所在不明となったことなどから,

資金難に陥り,その後,同社の経営を引き継いで

その簿外債務の処理に当たったものの,

平成元年7月ころ,それまで多額の融資を受けていた

大阪府民信用組合からも融資が打ち切られたため,

一層資金繰りに窮するようになっていた。

 

(2) 被告人は,平成元年8月3日ころ,

中堅総合商社であったイトマンの代表取締役社長 B の知己を得たが,

B は,当時,メインバンクの住友銀行の意向をはねのけて

イトマン社長の地位を保持するため,当面の決算対策用の

利益計上の材料探しに躍起となっていたことなどから,

被告人に対し,被告人のプロジェクトをイトマンの

資金提供の下に共同事業として遂行していくことを提案し,

被告人もこれに応ずることとした。

 

その結果,同年9月ころから,イトマンから

その子会社を介するなどして,協和等の被告人の関連会社に対し,

数百億円規模の巨額の融資が繰り返し実行されることとなった。

 

(3) さらに,B は,イトマンとして不動産開発事業等に取り組み,

それにより大きな収益を上げるためには,

それらの事業を統轄し,迅速な決断を下し得る体制が必要であるとして,

社長室に企画監理本部を新設する方針を打ち出したが,

それとともに,被告人からその手掛けている

不動産開発案件についての説明を聞くうち,

イトマン社内には被告人ほどの知識・経験を持つ

不動産開発事業の専門家はいないと思うようになった。

 

そこで,B は,被告人をいずれ役員とする含みでイトマンに入社させ,

企画監理本部の本部長に充てようと考え,同年11月ころから,

被告人にイトマンへの入社を勧めるようになり,

被告人も,これに応じてイトマンへの入社を決意するに至った。

 

(4) 企画監理本部は,平成2年1月1日付けで新設され,

同年2月1日,イトマン理事を委嘱された被告人が

その本部長に就任するとともに,被告人が B に紹介した

一級建築士の C が副本部長に就任し,同年4月1日,

具体的な業務遂行のための七つの部と企画監理統轄室が設置され,

大阪,東京,名古屋の各企画開発本部の本部長が1名ずつ,

兼務で営業担当副本部長に就任した。

 

そして,同月10日,企画監理本部から,

対外貸付金限度決裁権者につき,5億円以下は

企画監理本部長,5億円を超える場合は社長・副社長・

企画監理本部長とする等の内容の決裁申請書が提出されるとともに,

社長・管理本部長・企画監理本部長の連名で,

不動産関係与信限度及び不動産開発案件の申請は

企画監理本部に提出することとする通知が発せられた。

 

さらに,被告人は,B から,イトマンが新規事業として行う

絵画取引を管理統括するようにとの指示を受け,

同取引にも深く関与していた。

 

(5) 被告人は,入社当初から,

同年6月の次期株主総会後に取締役に就任することが予定されており,

大阪と東京の各本社に専用の執務室として顧問室を与えられた上,

専属の秘書が置かれてスケジュール管理等が行われ,

不動産開発案件等に関し被告人との面談を希望する者については,

秘書室で,用件,希望日時場所,所要時間等を聞き取って,

日程調整が行われていた。

 

そして,被告人は,同年2月から3月にかけて,

企画監理本部の体制が徐々に整備されていく中,

不動産関係に使用中の融資資金及び開発在庫資金の内容を個別に検討する

「不動産資金会議」に B やイトマン副社長らと共に出席したり,

決裁を求められた海外のゴルフ場買収案件について

修正意見を付したり,従来からイトマンが

子会社を通じて巨額の資金を投入しながら難航していた

東京都南青山の土地の地上げが企画監理本部に移管されたのに伴い,

部下に対し,土地の買収方法等を含めた具体的な指示を与えたりして,

社長である B の指揮命令の下,同本部の所管事項に携わっていた。

 

(6) 同年4月,企画監理本部の体制が整ってからも,被告人は,

イトマン大阪本社の同本部にはほとんど在室せず,

同本部の日常業務は,もっぱら副本部長の C が切り回していたが,

C は,プロジェクトの承認や不動産融資案件の決定等は上司である

被告人の権限であるとの認識を持っていた。

 

イトマン大阪本社には被告人の印鑑が預けられ,

基本的には被告人の専属秘書がこれを保管しており,

被告人から事前に包括的委任を受けていた C が,

被告人に代わって決裁印を押していたが,

何らかの判断を要する場合には,被告人に連絡を取り,

その指示を受けて押印することとしていた。

 

そして,被告人は,同月以降も,

大阪本社及び東京本社で月1回程度開催される

「不動産事業開発検討会議」等の企画監理本部主催の

会議等に出席して,営業部門の企画開発本部長らから

報告を受けるなどしていた。

 

(7) その後,被告人は,同年6月28日,

当初からの予定どおりイトマンの常務取締役に就任し,

引き続き企画監理本部長としての業務に従事したが,

同年秋になり,巨額の絵画取引の疑惑等,被告人が

関与するイトマンの様々な問題がマスコミ報道されるに至ったことなどから,

同年11月8日,イトマンを退社した。

 

(8) 以上の期間を通じて,被告人はイトマンから

給与等の支給を受けていなかったが,

被告人がその支給を要求しなかった理由には,

協和等の自己の関連会社がイトマンから

巨額の融資等の経済的利益を受けていたことに

恩義を感じていたことがあったものであり,他方,

B も,イトマンが被告人に給与等の名目では

労務の対価を支払っていないことは知っていたものの,

被告人の入社の前後を通じて,協和等にかなりの額の融資を行い,

その利便を図っていたことが,一種の報酬であると考えていた。

 

以上によれば,理事兼企画監理本部長の立場にあった当時の被告人は,

イトマンという株式会社の組織内に組み込まれ,

社長である B の指揮命令に服しながら,

不動産開発等の業務を担当する企画監理本部の長として,

イトマンの対外的法律行為に関する包括的代理権の行使を含め,

イトマンの企業活動の一端を継続的かつ従属的に担っていたのであるから,

イトマンから協和等に対して巨額の融資が

実行されていたことなどの事情もあって,

給与等の支給をイトマンから受けることがなかったとしても,

イトマンの「営業ニ関スル或種類若ハ特定ノ事項ノ委任

ヲ受ケタル使用人」に当たるというべきである。

 

したがって,被告人につき特別背任罪の成立を認めた原判断は,

結論において正当である。

 

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