国家賠償法1条1項,民法362条,民法369条,特許法27条1項3号,特許法95条,特許法98条1項3号

(平成18年1月24日最高裁)

事件番号  平成17(受)541

 

この裁判では、

特許庁の担当職員の過失により特許権を目的とする

質権を取得することができなかったことによる損害の額について、

 

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

(1) 特許権の移転及び特許権を目的とする質権の設定は,

特許庁に備える特許原簿に登録するものとされ

(特許法27条1項1号,3号),かつ,

相続その他の一般承継による特許権の移転を除き,

登録しなければその効力を生じないものとされ(同法98条1項1号,3号),

これらの登録は,原則として,登録権利者及び登録義務者の共同申請,

登録義務者の単独申請承諾書を添付した登録権利者の申請等に

基づいて行われることとされている(特許登録令15条,18条,19条)。

 

したがって,特許権者甲が,その債権者乙に対して

甲の有する特許権を目的とする質権を設定する旨の契約を締結し,

これと相前後して第三者丙に対して当該特許権を

移転する旨の契約を締結した場合において,

乙に対する質権設定登録の申請が先に受け付けられ,

その後丙に対する特許権移転登録の申請が受け付けられたときでも,

丙に対する特許権移転登録が先にされれば,

質権の効力が生ずる前に当該特許権が丙に移転されていたことになるから,

もはや乙に対する質権設定登録をすることはできず,結局,

当該質権の効力は生じないこととなる。

 

このため,申請による登録は,受付の順序に

従ってしなければならないものとされており(同令37条1項),

特許庁の担当職員がこの定めに反して受付の順序に従わず,

後に受付のされた丙に対する特許権移転登録手続を先にしたために,

先に受付のされた乙に対する

質権設定登録をすることができなくなった場合には,

乙は,特許庁の担当職員の過失により,

本来有効に取得することのできた質権を

取得することができなかったものであるから,

これによって被った損害について,

国家賠償を求めることができる。

 

前記事実関係によれば,上告人は,

平成9年9月1日,Dから本件質権の設定を受け,

同月2日,特許庁長官に本件質権設定登録を申請し,同月3日,

これが受け付けられたにもかかわらず,

この受付に後れて申請及び受付がされた

本件特許権移転登録が先にされたため,

本件質権の効力が生じなかったというのであるから,

上告人は,特許庁の担当職員の過失により,

本来有効に取得することのできた本件質権を

取得することができなかったものであることが明らかである。

 

(2) 特許庁の担当職員の過失により

特許権を目的とする質権を取得することができなかった場合,

これによる損害額は,特段の事情のない限り,

その被担保債権が履行遅滞に陥ったころ,

当該質権を実行することによって回収することができたはずの債権額というべきである。

 

前記事実関係に照らせば,本件債権は,

Dが銀行取引停止処分を受けて期限の利益を喪失した

平成10年3月23日の時点で履行遅滞に陥ったものと認められ,

しかも上記特段の事情はうかがわれないから,そのころ,

本件質権を実行することによって回収することのできたはずの

本件債権の債権額が本件質権を取得することが

できなかったことによる損害額というべきである。

 

そして,本件質権には,これに優先する担保権は存在しないから,

結局,平成10年3月ころの本件特許権の適正な価額から

回収費用を控除した金額(それが本件債権の債権額を上回れば同債権額)が,

本件質権を取得することができなかったことによる損害額となる。

 

(3) そこで,平成10年3月ころの本件特許権の適正な価額について検討する。

特許権の適正な価額は,損害額算定の基準時における

特許権を活用した事業収益の見込みに基づいて

算定されるべきものであるところ,前記事実関係によれば,

①Dが,平成8年3月,特許出願中の本件特許権を

構成する技術の一部を用いたFS床版工法を発表したところ,

多数の新聞に取り上げられ,多数の企業等から

同工法についての照会や資料請求があったこと,

②Dから本件特許権の譲渡を受けたEは,平成9年11月,

F物産に対し,本件特許権等を代金4億円で譲渡したこと,

③F物産は,Dらと共に本件特許権の事業化に取り組み,

平成10年4月,スーパーMSG床版という商品名で

パンフレットを作成し,その販売営業に努力したこと,

④F物産は,本件特許権の事業化の障害となる

本件質権設定登録を抹消するため,同年5月,

上告人に対し,その抹消登録手続を求める訴えを提起し,

同年7月,勝訴判決を得て,同年10月,その目的を達したこと,

⑤F物産は,最終的には,本件特許権の事業化は採算が

合わないものと判断してこれを断念し,平成12年10月までに

本件特許権の第5年分の特許料の支払をしなかったため,

本件特許権が消滅したが,それまでは

同事業化の努力をしていたことなどが明らかである。

 

以上に照らすと,本件特許権は,最終的には

F物産による事業化に成功せず,

平成12年10月に消滅するに至ったというのであるが,

本件債権が履行遅滞に陥った平成10年3月ころには,

事業収益を生み出す見込みのある発明として

相応の経済的評価ができるものであったということができ,

本件質権の実行によって本件債権について

相応の回収が見込まれたものというべきである。

 

(4) 【要旨2】以上によれば,上告人には

特許庁の担当職員の過失により

本件質権を取得することができなかったことにより

損害が発生したというべきであるから,

その損害額が認定されなければならず,

仮に損害額の立証が極めて困難であったとしても,

民訴法248条により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて,

相当な損害額が認定されなければならない。

 

ところが,原審は,上記(3)①~⑤のような事実が明らかであるにもかかわらず,

本件特許権について本件質権設定登録がされていた場合に,

本件特許権等についての譲渡契約が前記1(5)の譲渡契約と同様に成立し,

本件質権設定登録を抹消するために上告人に相当額が交付されるに

至ったものとは認定し難いとして,

本件質権を取得することができなかったことによる

損害の発生を否定したのであるから,原審の上記判断には,

判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 

論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由があり,

原判決は破棄を免れない。

 

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