国家賠償法1条1項,民法709条

(平成17年12月8日最高裁)

事件番号  平成17(受)715

 

この裁判は、

拘置所に勾留中の者が脳こうそくを発症し

重大な後遺症が残った場合について

速やかに外部の医療機関へ転送されていたならば

重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が

証明されたとはいえないとして国家賠償責任が認められなかった事例です。

 

最高裁判所の見解

本件は,上告人が被上告人に対し,東京拘置所の職員である医師は,

上告人に脳こうそくの適切な治療を受ける機会を与えるために,

速やかに外部の医療機関に転送すべき義務があったにもかかわらず,

これを怠り,上告人に適切な治療を受ける機会を失わせたなどと主張して,

国家賠償法1条1項に基づいて,慰謝料等を請求する事案である。

 

勾留されている患者の診療に当たった拘置所の職員である医師が,

過失により患者を適時に外部の適切な医療機関へ

転送すべき義務を怠った場合において,

適時に適切な医療機関への転送が行われ,

同病院において適切な医療行為を受けていたならば,

患者に重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されるときは,

国は,患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害について

国家賠償責任を負うものと解するのが相当である

(最高裁平成9年(オ)第42号同12年9月22日

第二小法廷判決・民集54巻7号2574頁,

最高裁平成14年(受)第1257号同15年11月11日第三小法廷判決・

民集57巻10号1466頁参照)。

 

前記事実関係によれば,

(1) 第1回CT撮影が行われた4月1日午前9時3分の時点では,

上告人には,血栓溶解療法の適応がなかった,

(2) それより前の時点においては,上告人には,

血栓溶解療法の適応があった可能性があるが,

血栓溶解療法の適応があった間に,上告人を外部の医療機関に転送して,

転送先の医療機関において血栓溶解療法を

開始することが可能であったとは認め難い,

 

(3) 東京拘置所においては,上告人の症状に対応した治療が行われており,

そのほかに,上告人を速やかに外部の医療機関に転送したとしても,

上告人の後遺症の程度が軽減されたというべき事情は

認められないのであるから,上告人について,

速やかに外部の医療機関への転送が行われ,

転送先の医療機関において医療行為を受けていたならば,

上告人に重大な後遺症が残らなかった

相当程度の可能性の存在が証明されたということはできない。

 

そして,本件においては,

上告人に重大な後遺症が残らなかった相当程度の

可能性の存在が証明されたということができない以上,

東京拘置所の職員である医師が上告人を

外部の医療機関に転送すべき義務を怠ったことを

理由とする国家賠償請求は,理由がない。

 

なお,東京拘置所の医師が外部の医療機関に転送しないで

上告人に対して行った診療は「生命の尊厳を脅かすような粗雑診療」で

あるから国家賠償責任がある旨の上告人の主張は,

前記事実関係によれば,東京拘置所の医師は上告人に対して

所要の治療を行っており,その診療が「生命の尊厳を脅かすような粗雑診療」

であるということはできないから,

前提を欠き,採用することができない。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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