国際仲裁契約の成立及び効力の準拠法
(平成9年9月4日最高裁)
事件番号 平成6(オ)1848
最高裁判所の見解
1 上告人は、教育関係の催事のブロデュース、
外国アーティストの招へい及び一般興行等を目的とする
日本法人(株式会社)であり、被上告人は、
アメリカ合衆国においてサーカス興行を行う
同国法人B(以下「B社」という。)の代表者である。
2 上告人とB社は、昭和六二年一〇月二日、
上告人が、昭和六三年度及び平成元年度の二年間、
B社のサーカス団を日本に招へいして興行する権利を取得し、
同社に対してその対価を支払うとともに、B社が、
右二年間、日本において、同社のサーカス団が
昭和六二年八月一五日にアメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴの
スポーツアリーナにおいて行った公演と規模、
質共に同等のサーカスを構成して興行する
義務を負う旨の契約(以下「本件興行契約」という。)を締結した。
3 上告人とB社は、本件興行契約締結の際、
「本件興行契約の条項の解釈又は適用を含む紛争が解決できない場合は、
その紛争は、当事者の書面による請求に基づき、
商事紛争の仲裁に関するD商業会議所の規則及び手続に従って
仲裁に付される。B社の申し立てるすべての仲裁手続は東京で行われ、
上告人の申し立てるすべての仲裁手続はニューヨーク市で行われる。
各当事者は、仲裁に関する自己の費用を負担する。
ただし、両当事者は仲裁人の報酬と経費は等分に負担する。」旨の
合意(以下「本件仲裁契約」という。)をした。
4 本件訴訟は、上告人が、本件興行契約締結に際し、
B社の代表者である被上告人がキャラクター商品等の
販売利益の分配及び動物テント設営費用等の負担義務の履行について
上告人を欺罔して上告人に損害を被らせたと主張して、
被上告人に対して不法行為に基づく損害賠償を求めるものである。
これに対して、被上告人は、上告人とB社との間の
本件仲裁契約の効力が上告人と被上告人との間の本件訴訟にも及ぶと主張して、
本件訴えの却下を求めた。
二 仲裁は、当事者がその間の紛争の解決を第三者である仲裁人の
仲裁判断にゆだねることを合意し、右合意に基づいて、
仲裁判断に当事者が拘束されることにより、
訴訟によることなく紛争を解決する手続であるところ、
このような当事者間の合意を基礎とする紛争解決手段としての
仲裁の本質にかんがみれば、いわゆる国際仲裁における
仲裁契約の成立及び効力については、法例七条一項により、
第一次的には当事者の意思に従ってその準拠法が
定められるべきものと解するのが相当である。
そして、仲裁契約中で右準拠法について
明示の合意がされていない場合であっても、
仲裁地に関する合意の有無やその内容、
主たる契約の内容その他諸般の事情に照らし、
当事者による黙示の準拠法の合意があると認められるときには、
これによるべきである。
これを本件についてみるに、前記事実関係によれば、
本件仲裁契約においては、仲裁契約の準拠法についての
明示の合意はないけれども、
「B社の申し立てるすべての仲裁手続は東京で行われ、
上告人の申し立てるすべての仲裁手続はニューヨーク市で行われる。」旨の
仲裁地についての合意がされていることなどからすれば、
上告人が申し立てる仲裁に関しては、
その仲裁地であるニューヨーク市において適用される法律をもって
仲裁契約の準拠法とする旨の黙示の合意がされたものと認めるのが相当である。
三 本件仲裁契約に基づき上告人が
申し立てる仲裁について適用される法律は、
アメリカ合衆国の連邦仲裁法と解されるところ、
同法及びこれに関する合衆国連邦裁判所の
判例の示す仲裁契約の効力の物的及び人的範囲についての
解釈等に照らせば、上告人の被上告人に対する
本件損害賠償請求についても本件仲裁契約の効力が
及ぶものと解するのが相当である。
そして、当事者の申立てにより仲裁に付されるべき紛争の範囲と当事者の
一方が訴訟を提起した場合に相手方が仲裁契約の存在を理由として
妨訴抗弁を提出することができる紛争の範囲とは
表裏一体の関係に立つべきものであるから、
本件仲裁契約に基づく被上告人の本案前の抗弁は理由があり、
本件訴えは、訴えの利益を欠く不適法なものとして却下を免れない。
スポンサードリンク