在外(韓)被爆者の健康管理手当支給停止処分取消請求事件

(平成18年6月13日最高裁)

事件番号  平成15(行ヒ)130

 

この裁判では、

原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律

(平成11年法律第87号による改正前のもの)による

健康管理手当の支給認定を受けた被爆者が

国外に居住地を移転した場合における同手当の支給義務者について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

(1) 原爆三法上,被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は,

居住地(居住地を有しないときは,現在地。以下同じ。)の

都道府県知事に申請することとされ

(原爆医療法3条1項,被爆者援護法2条1項),

都道府県知事から被爆者健康手帳の交付を受けた被爆者が

健康管理手当の支給を受けようとするときは,

要件に該当することにつき

都道府県知事の認定を受けなければならず,

都道府県知事は要件に該当する者に対し

同手当を支給するものとされている

(原爆特別措置法5条,被爆者援護法27条)。

 

そして,地方自治法148条2項,別表第3第1項(10の2),

地方自治法(平成6年法律第117号による改正前のもの)

別表第3第1項(10の3)によれば,

上記のような原爆特別措置法又は被爆者援護法の規定に基づいて

都道府県知事が健康管理手当等を支給する事務は,

国の機関委任事務とされていた。

 

(2) 国の機関委任事務については,普通地方公共団体の長は,

国の機関として事務を処理するものとされていた

(地方自治法150条,平成11年法律第87号による

改正前の国家行政組織法15条2項)が,

そのことから当然に国が当該事務の処理等に要する費用を

支弁する義務を負うというべきものではない。

 

地方自治法232条1項は,普通地方公共団体は,

当該普通地方公共団体の長が法律又はこれに基づく政令により

その権限に属する国の事務を管理し,又は執行するために

必要な経費を支弁するものとすると定めており,

機関委任事務を処理するために必要な費用は,

国ではなく普通地方公共団体が債務者としてその財政から

支出して支払う義務を負うものとされていた。

 

その上で,同条2項は,法律又はこれに基づく政令により

普通地方公共団体の長をして国の事務を処理し,管理し,

又は執行させる場合においては,国は,

そのために要する経費の財源につき必要な措置を

講じなければならないとし,地方財政法

(平成11年法律第87号による改正前のもの)9条ただし書,

10条ないし10条の4は,国は,普通地方公共団体が

支弁した経費の全部又は一部を終局的に

負担することがあるとしていた。

 

他方,原爆特別措置法及び被爆者援護法も,

健康管理手当等の支給及び当該法律又は

当該法律に基づく命令の規定により

都道府県知事が行う事務に要する費用は,

当該都道府県(広島市又は長崎市については各市。以下同じ。)の

支弁とするとし(原爆特別措置法10条1項,15条,

被爆者援護法42条1号,49条),国は,政令で定めるところにより,

都道府県が支弁する上記費用(介護手当に係るものを除く。)を

当該都道府県に交付すると定めている(原爆特別措置法10条2項,

被爆者援護法43条1項)。

 

このように,被爆者援護法等は,上記のような機関委任事務についての

費用支弁の原則に従い,都道府県知事が機関委任事務として

処理する健康管理手当の支給に要する費用は,

当該都道府県が支弁する,

すなわち債務者として支払うことを定めている。

 

以上のとおり,支給認定により具体的に発生し確定した

支給請求権に基づく健康管理手当の支給については,

支給認定をした長の所属する都道府県が受給権者に対し

その支給義務を負うものであり,国がその支給義務を負うものではない。

 

(3) 原爆医療法施行令3条,原爆医療法施行規則4条,

被爆者援護法施行令(平成14年政令第148条による改正前のもの)3条,

被爆者援護法施行規則4条は,被爆者健康手帳の

交付を受けた者が他の都道府県の区域に居住地を移したときは,

新居住地の都道府県知事に居住地変更の届出をし,

これを受理した都道府県知事は旧居住地の

都道府県知事にその旨の通知をすることとし,

届出を受理した都道府県知事は,被爆者健康手帳交付台帳に

新居住地への転入等の必要事項を記載し,

上記通知を受けた都道府県知事は被爆者健康手帳交付台帳から

当該被爆者に関する記載を抹消するものとしている。

 

また,原爆特別措置法施行規則及び被爆者援護法施行規則

(平成14年厚生労働省令第74号による改正前のもの。以下同じ。)は,

健康管理手当受給権者が居住地を移したときは,

所定事項を記載した届出書に住民票等を添えて,

居住地の都道府県知事に提出しなければならないとし,

都道府県知事は,都道府県の区域を越えて居住地を移した者から

この届出が提出されたときは,従前の居住地の都道府県知事に

文書で通知しなければならないとしている

(原爆特別措置法施行規則23条において準用する7条,

被爆者援護法施行規則54条において準用する35条)。

 

これらの規定は,国内における居住地の移転によって

新居住地の都道府県知事が実施機関となり,

その都道府県に支給義務が移転することを前提として,

それに伴う事務手続が円滑に

行われるようにするための規定と考えられる。

 

これに対して,被爆者が我が国から出国して

国外に居住地を移した場合については,当時,

このような規定はなく,そのような場合の

支給実施機関,支給手続を定めた規定もなかった。

 

(4) 以上のことからすれば,健康管理手当の

支給認定を受けた被爆者に対する同手当の支給義務は,

原則として支給認定をした長の所属する都道府県が

これを負い,その後の居住地の移転に伴い

被爆者援護法等関連法令の定めるところにより

新居住地の都道府県知事が実施機関となる場合には

当該都道府県がこれを負うことになるが,

日本国外への居住地の移転に伴い支給義務が

他に移転する旨の定めはないのであるから,

日本国外に居住地を移転した被爆者に対しては,

従前支給義務を負っていた最後の居住地の

都道府県が支給義務を負うものであって,

国がその支給義務を負うと解すべき理由はない

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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