地位不存在確認請求事件

(平成13年4月26日最高裁)

事件番号  平成11(受)722

 

最高裁判所の見解

1 被上告人のような任意団体で,その運営が組合員の総意により,

民主的に行われることが制度的に保障されている団体においては,

総会又は総代会の議決により決定された事項は,

その決定が,正当な事実認識に基づいてされたものであり,

その決定内容が諸法令や定款等に反しない限り,

基本的に尊重すべきである。

 

2 本件総代会前に,上告人に対する除名の

具体的事由は明示的に示されず,本件総代会の席上でも,

弁明の機会を除き上告人は議場に入ることができず,結局,

明確な除名事由の告知はなかったが,

本件総代会で各総代が認識していた上告人に対する除名事由は,

被除名者ら5名の一連の行動全部を含むものであり,

除名事由の主要なものは,本件仮処分の申立て行為,

ビラの配布行為であり,それが除名事由に含まれていたことは

上告人も推測することができた。

 

3 理事長からの除名事由の説明は,被除名者ら5名を区別せず,

一括してされたもので,上告人が事業妨害組合員,

信用失墜組合員に該当する事実が明確に整理されて説明されたとはいえず,

仮処分の申立てについては,被上告人を相手方とせざるを

得ないことが総代に十分に理解されず,

被上告人への敵対行為であるとして

非難されたことが認められ,総代が認識していた事実も

被除名者らを区別せず渾然一体として認識されていたもので,

いささか正確性を欠いていたともいえる。

 

しかし,本件総代会に出席した総代は,少なくとも,おおむね,

被除名者らが本件仮処分の申立てをしたこと,

それが被上告上告人の対外的信用を

失墜させた行為であると受け止めていること,

被除名者らの一部の者が被上告人の事務所において暴言を吐くなどして

被上告人に混乱が生じていること,

被除名者らがガス・スタンド等でビラを配布したこと,

被除名者らのうち理事であった者が理事会の決定に

従わない行動をしたことを認識していたものであり,

この認識はおおむね事実に沿うものであった。

 

4 各総代は,本件決議に際し,上記各事実のそれぞれが

除名事由に当たるかどうかではなく,

職員の懲戒解雇から本件仮処分の申立てを経て本件決議に至るまでの間に

被除名者らが行った一連の行為により被上告人の

事務に支障が生じていることの全体を被除名者らの除名事由と理解したが,

このように,上告人の関与の有無を問わずに

被除名者らの行為を全体として除名事由があるとすることも,

被除名者らが行動を共にし,その各人の行動が被上告人の

事務の混乱を招いていたことからすれば不当とはいえない。

 

各総代が除名事由該当事実と認識したものの中には,

上告人が関与していないものもあり,また,

各個の事実にはそれだけでは除名事由に該当するとは思われない事実もあるが,

被除名者らの上記一連の行為から,

上告人が事業妨害組合員及び信用失墜組合員であると

判断することが諸法令や定款に反するものではないから,

各総代が被除名者らの行動の全体を除名事由ととらえて議決権を行使し,

除名処分の前提とされた事実がおおむね真実に沿う以上,

本件決議における総代の多数意思を尊重し,

本件決議を有効とすべきである。

 

第3 原審の上記判断は,是認することができない。

その理由は,次のとおりである。

 

1 D組合の目的は,事業者の協同により経済活動の機会を確保し,

経済活動を促進し,事業者の経済的地位を向上することにあり(法1条),

組合員は相互の経済活動の利便のために任意に団体に加入するものである。

 

このような経済目的によって結ばれる団体の内部規律に関しては,

宗教法人,学校法人などの内部規律とは異なり,

当該団体の裁量的判断にゆだねられる余地は少ない。

 

とりわけ除名処分といった法律関係を終了させる処分は,

当該組合員の存在が組合員の相互扶助という組合の目的に反し,

又はこの目的を阻害するといった明確な事実があるときに

許容されるものであり,法が組合員の除名事由を法自ら定め,

又は定款で定めることとし,除名のための手続として総会又は

総代会における弁明の機会を保障しているのも,

このような除名の趣旨を超えてD組合の経済目的と

無関係な除名がされることがないようにするためである。

 

そうすると,D組合における組合員の除名処分においては,

遅くとも除名決議に係る総会又は総代会までに,

除名の対象者及びその議決権者に対して,

除名事由とされる事実を特定して明らかにすることが必要である。

 

これを反対に解するときは,除名の対象者にとって

弁明すべき事実及び議決権者が

除名事由該当性を判断すべき事実が特定されず,

除名事由及び除名手続を規律する法及び

定款の趣旨を損なうことになる。

 

そして,被上告人が自律的規範を持つ団体であり,

定款に記載された除名事由が公序良俗に反するものではなく,

除名事由該当性の判断が自律的規範に基づく

内部事項についての判断であるとしても,

原審の指摘する団体の自律的判断の尊重は,

除名事由として特定された事実について

相応の事実的基礎がある場合に,

D組合の存立の目的に照らして考慮すべきものであり,

除名事由に当たる事実を特定して明らかにすることを

不要とする理由になるものではない。

 

2 これを本件についてみると,上告人に対しては,

本件決議までに明確な除名事由の告知はなかったというのであるから,

すでにこの点において,本件決議には

除名手続上重要な瑕疵があることになる。

 

仮に上告人において被上告人が原審の指摘する

一連の事実経過をもって除名事由たる事実

としていることを認識し得たとしても,

上告人が常に他の被除名者らと行動を共にしていたとか,

首謀者として他の被除名者らを指揮し,

指示を発していたものではないというのであるから,

上告人が関与しない事実を含む一連の事実経過をもって,

上告人に対する除名事由たる事実が特定されたということはできない。

 

なお,原審がおおむね事実に沿うとする事項(第2,3)のうち

上告人に関するものは,本件仮処分の申立てをしたこと及び

ビラの作成,配布に関与したことであるが,

被上告人を相手方とする本件仮処分の申立てが

被上告人への敵対行為であるとの

総代らの認識は仮処分の申立て手続に関する

法律知識の不足によるものであり,

上告人の上記各行為を違法,不当とすべき事情は認められない。

 

そうすると,本件総代会までに,除名の対象となる者についての

除名事由が具体的に明らかにされることなく,

理事長において上告人の関与しない事実を含む

一連の事実経過をもって被除名者らを包括的に除名すべきものと

主張していたにすぎない本件にあっては,

上告人において理事長のこのような意図を認識し得たことをもって,

除名事由とされる事実が被除名者である上告人に対して

特定して明らかにされたということはできない。

 

3 したがって,本件決議は,除名事由を特定し,

明らかにしてされたものとはいえず,無効というべきである。

 

第4 以上によれば,原審の前記判断には,

本件定款に定める除名事由に該当する事実を特定せずにされた

除名処分を是認した点において,除名事由について規定する法及び

本件定款の解釈,適用を誤った違法があり,

この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

 

この趣旨をいう論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。

そして,前記のとおり,本件決議は無効であるから,

その有効を前提とする被上告人の請求は理由がないので,

これを認容した第1審判決を取り消し,同請求を棄却すべきである。

 

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