地方公務員災害補償法31条,地方公務員災害補償法45条1項

(平成18年3月3日最高裁)

事件番号  平成14(行ヒ)96

 

この裁判は、

心臓疾患を有する地方公務員が公務として行われた

バレーボールの試合に出場した際に

急性心筋こうそくを発症して死亡した場合につき

同人の死亡とバレーボールの試合に出場したこととの間の

相当因果関係を否定した原審の判断に違法があるとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

前記事実関係によれば,① Aは,昭和59年9月に復職した後,

力仕事に従事することは極力避けるようにしていたものの,

その余の職務には通常どおり従事しており

その勤務状況は良好であって 病気により休暇を取得することはなかった

② 同62年6月に行われたマスターダブル運動負荷テストの結果,

Aには狭心症状等は認められず,日常生活,

事務労働,車の運転等の中程度の労働まで許容することができるとされた,

③ Aは,平成元年11月に行われたソフトボール大会に参加した際,

代打として出場し,ホームランを打って走塁した後1塁の守備についたことがあった,

④ 昭和59年6月に国立南九州中央病院を退院した後にAが

狭心症状等を起こした旨の記録は存在しないというのである。

 

これらの事実に照らすと,本件においては,

Aの心臓疾患は,確たる発症因子がなくてもその自然の経過により

心筋こうそくを発症させる寸前にまでは増悪していなかったと認める余地が

あるというべきである。

 

原審は,平成2年5月当時のAの心臓機能が昭和59年6月と

比較して非常に悪化していた上,Aの血清1 dl 当たりの総コレステロール値が

平成元年11月には255 mg まで急激に上昇していたことから,

Aはプラーク破裂により心筋こうそくを発症する可能性が

高い状態にあったとするが,記録によれば,

Aの総コレステロール値は同2年3月には

203 mg であったことがうかがわれるところであるし,

前記のAの死亡前の勤務状況等に照らせば,

上記各事実のみから直ちにAが上記状態にあったと

認定することはできないといわなければならない。

 

そして,前記事実関係によれば,

9人制バレーボールの全試合時間を通じた平均的な

運動強度は通常歩行と同程度のものであるが,

スパイク等の運動強度はその数倍に達するのであって,

その一時的な運動強度は相当高いものであるというのであるから,

他に心筋こうそくの確たる発症因子のあったことがうかがわれない本件においては,

バレーボールの試合に出場したことによる身体的負荷は,

Aの心臓疾患をその自然の経過を超えて

増悪させる要因となり得たものというべきである。

 

そうすると,Aの心臓疾患が,確たる発症因子がなくても

その自然の経過により心筋こうそくを発症させる寸前にまでは

増悪していなかったと認められる場合には,

Aはバレーボールの試合に出場したことにより

心臓疾患をその自然の経過を超えて増悪させ心筋こうそくを発症して

死亡したものとみるのが相当であって,

Aの死亡の原因となった心筋こうそくの発症と

バレーボールの試合に出場したこととの間に

相当因果関係の存在を肯定することができることになるのである。

 

以上によれば,Aの心臓疾患が,確たる発症因子がなくても

その自然の経過により心筋こうそくを発症させる寸前にまでは

増悪していなかったかどうかについて十分に審理することなく,

Aの死亡とバレーボールの試合に出場したこととの間に

相当因果関係があるということはできないとした原審の判断には,

判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 

論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,

原判決は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,

本件を原審に差し戻すこととする。

 

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