地方自治法242条の2第1項1号に基づく差止請求の対象の特定の程度

(平成5年9月7日最高裁)

事件番号  平成3(行ツ)214

 

最高裁判所の見解

地方自治法二四二条の二第一項一号の規定による住民訴訟の制度は、

普通地方公共団体の執行機関又は職員による

同法二四二条一項所定の財務会計上の違法な行為を予防するため、

一定の要件の下に、住民に対し当該行為の全部又は

一部の事前の差止めを裁判所に請求する権能を与え、

もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的としたものである。

 

このような事前の差止請求において、複数の行為を

包括的にとらえて差止請求の対象とする場合、

その一つ一つの行為を他の行為と区別して

特定し認識することができるように

個別、具体的に摘示することまでが常に必要とされるものではない。

 

この場合においては、

差止請求の対象となる行為とそうでない行為とが

識別できる程度に特定されていることが

必要であることはいうまでもないが、

事前の差止請求にあっては、当該行為の適否の判断のほか、

さらに、当該行為が行われることが

相当の確実さをもって予測されるか否かの点及び

当該行為により当該普通地方公共団体に回復の困難な

損害を生ずるおそれがあるか否かの点に対する判断が

必要となることからすれば、

これらの点について判断することが可能な程度に、

その対象となる行為の範囲等が特定されていることが必要であり、かつ、

これをもって足りるものというべきである。

 

このような観点からすると、

例えば、特定の工事の完成に向けて行われる

一連の財務会計上の行為についてその差止めを求めるような場合には、

通常は、右工事自体を特定することにより、

差止請求の対象となる行為の範囲を識別することができ、

また、右特定の工事自体が違法であることを

当該行為の違法事由としているときは、

当該行為を全体として一体とみて

その適否等を判断することができるというべきであるから、

右工事にかかわる個々の行為の一つ一つを個別、具体的に摘示しなくても、

差止請求の対象は特定されていることになるものというべきである。

 

これを本件についてみるのに、

前記の上告人らの本件訴えの内容からすると、

本件の請求は、本件埋立て等に関して被上告人のする

一切の公金の支出の包括的な差止めを

その趣旨とするものであり、

専ら本件埋立免許及びそれに基づく本件埋立てが

違法であることを理由とし、

そのため本件埋立免許を前提として今後被上告人のする

本件埋立ての完成に向けての一連の経費の支出も

包括的に違法なものになるとして、

その差止めを求めていることが明らかである。

 

そうすると、本件訴えにおいては、

差止請求の対象となる本件公金支出の範囲を識別することができ、

また、これを全体として一体とみて

その適否を判断することが可能であり、

さらに、これが行われることが相当の確実さをもって予測されるか否か、

回復困難な損害が生ずるか否かの点をも判断することが可能であるから、

請求の趣旨の特定として欠けるところはないものというべきである。

 

また、前記のような住民訴訟の制度を地方自治法が認めていることからして、

本件訴えが争訟性を欠き不適法なものであるとすることができないことは

明らかである。

 

そうすると、上告人らの本件訴えを不適法として却下した原判決には、

法令の解釈適用を誤った違法があり、

右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、

論旨は理由がある。よって、原判決中上告人らに関する部分を破棄し、

右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

 

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