地方自治法242条1項,地方自治法242条の2第1項

(平成18年4月25日 最高裁)

事件番号  平成16(行ヒ)312

 

この裁判は、

市の施行する予定の土地区画整理事業が違法であると主張して

同事業のために支出された公金の返還及び同事業に対する

公金支出の差止めを求める住民監査請求が

請求の対象の特定に欠けるところはないとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

(1) 住民監査請求においては,その対象が特定されていること,

すなわち,対象とする財務会計上の行為又は

怠る事実(以下「当該行為」という。)が

他の事項から区別し特定して認識することができるように

個別的,具体的に摘示されていることを要する。

 

しかし,その特定の程度としては,監査請求書及び

これに添付された事実を証する書面の各記載,

監査請求人が提出したその他の資料等を総合して,

住民監査請求の対象が特定の当該行為であることを

監査委員が認識することができる程度に摘示されているのであれば,

これをもって足り,上記の程度を超えてまで

当該行為を個別的,具体的に摘示することを要するものではない。

 

また,対象となる当該行為が複数であるが,

当該行為の性質,目的等に照らしこれらを

一体とみてその違法性又は不当性を判断するのを相当とする場合には,

対象となる当該行為とそうでない行為との識別が可能である限り,

個別の当該行為を逐一摘示して特定することまでが

常に要求されるものではない。

 

そして,地方公共団体が特定の事業

(計画段階であっても,具体的な計画が企画立案され,

一つの特定の事業として準備が進められているものを含む。)を

実施する場合に,当該事業の実施が違法又は不当であり,

これにかかわる経費の支出全体が違法又は不当であるとして

住民監査請求をするときは,通常,当該事業を特定することにより,

これにかかわる複数の経費の支出を個別に摘示しなくても,

対象となる当該行為とそうでない行為との識別は可能であるし,

当該事業にかかわる経費の支出がすべて違法又は

不当であるという以上,これらを一体として違法性又は

不当性を判断することが可能かつ相当ということができる。

 

また,当該行為を防止するために必要な措置を求める場合には,

これに加えて,当該行為が行われることが相当の確実さをもって

予測されるか否かの点についての判断が可能で

ある程度に特定されていることも必要になるが,

上記のような事案においては,当該事業を特定することによって,

この点を判断することも可能である場合が多い。

 

したがって,そのような場合に,当該事業にかかわる個々の支出を

一つ一つ個別具体的に摘示しなくても,

住民監査請求の対象の特定が欠けることにはならないというべきである。

 

(2) 本件監査請求において,上告人らは,

本件事業自体が,基本的人権等を定める憲法の諸条項,

民主的な住民参加等を定める都市計画法の諸条項,

最少経費の支出を求めている地方自治法及び

地方財政法の条項等に違反する不当又は違法なものであるから,

その事業に関する公金の支出は不当又は違法であると主張し,

本件事業に関する平成13年度以降の一切の公金の支出を対象として,

既支出分の返還と今後の支出の差止めの措置を求めているのであって,

本件事業にかかわる公金の支出を全体として

一体とみてその違法性又は不当性を判断するのを相当とする場合に当たる。

 

そして,上告人らが本件監査請求において

返還を求めるべきであるとした平成13年度の

1億0451万9714円の支出が,

監査請求書に添付された前記決算書(写し)に

「羽村駅西口地区整備事業に要する経費」として記載されているものを

指すことは明らかであり,対象外の支出との区別は可能である。

 

本件監査請求において対象となる各支出行為の年月日や

金額等が具体的に摘示されていなくとも,監査委員としては,

当該事業を担当する区画整理課への確認,同課からの書類提出等により

本件事業に関する各支出行為を明らかにさせることによって,

本件監査請求の対象である各支出行為を容易に

把握することができるものというべきである。

 

また,上記決算書における記載からも明らかなように,

羽村市においては,既に,本件事業のための経費が,

特定されて予算に計上され,決算上もそのような支出として

整理されていたことがうかがわれ,

本件事業の事業計画が決定され公告された後に,

本件事業の位置付けや本件事業のための経費に関する予算上又は

決算上の会計区分は変動するとしても,

本件事業の同一性が失われるものではなく,

本件事業のための経費支出の特定性が失われるとも考えられないのであって,

本件事業を特定することにより差止めを求める対象となる

公金の支出の範囲も識別することができるものということができる。

 

さらに,本件監査請求の時点では土地区画整理法上の

事業計画の決定及び公告がされていなかったとはいっても,

土地区画整理事業の都市計画決定がされて施行区域も定まり,

羽村市の本件事業に関する事業計画(案)も縦覧に供され,

施行規程も制定されるという段階に至っている以上,

本件事業及びこれに伴う公金の支出がされることが

相当の確実性をもって予測されるかどうかの判断を

可能とする程度の特定性もあったということができる。

 

事業計画の正式な決定前であるため,

その後に本件事業の基礎的事項に変更があり得るとしても,

上告人らの主張する違法性ないし不当性の内容からして,

その変更が本件事業及びこれに伴う公金の支出の適否等の

判断に大きく影響するものとは考えられない。

 

したがって,将来の公金の支出についても,

住民監査請求の対象の特定として欠けるところはないということができる。

 

そうすると,本件監査請求は,請求の対象の特定に

欠けるところはないというべきである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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