地方自治法242条2項

(平成14年10月15日最高裁)

事件番号  平成10(行ツ)86

 

最高裁判所の見解

論旨は,本件監査請求の対象が本件賃貸借契約の締結であるとして

その締結の日を基準に法242条2項本文を適用すべきものとした

原審の判断には,法令解釈の誤りがある旨をいう。

 

同項本文にいう当該行為のあった日とは一時的行為のあった日を,

当該行為の終わった日とは継続的行為について

その行為が終わった日を,

それぞれ意味するものと解するのが相当である。

 

前記事実関係によれば,本件監査請求においては,

本件賃貸借契約の締結がその対象となる行為とされているところ,

契約の締結行為は一時的行為であるから,

これを対象とする監査請求においては契約締結の日を基準として

同項本文の規定を適用すべきである。これと同旨の原審の判断は,

正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

 

第2 上告代理人小野寺信一,同半澤力の上告理由のうち

第1事件について法242条2項ただし書にいう

正当な理由の解釈適用の誤りをいう部分について

 

1 普通地方公共団体の執行機関,職員の財務会計上の行為が

秘密裡にされた場合に限らず,普通地方公共団体の住民が

相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて

監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は

内容を知ることができなかった場合には,

法242条2項ただし書にいう正当な理由の有無は,

特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が

相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて

上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から

相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである

(最高裁平成10年(行ツ)第69号,

第70号同14年9月12日第一小法廷判決・

裁判所時報1323号4頁〔編注:民集56巻7号1481頁〕,

最高裁平成13年(行ツ)第38号,同年(行ヒ)第36号

同14年9月17日第三小法廷判決・

裁判所時報同号11頁〔編注:裁判集(民事)207号111頁〕参照)。

 

もっとも,当該普通地方公共団体の

一般住民が相当の注意力をもって

調査したときに客観的にみて上記の程度に

当該行為の存在又は内容を知ることができなくても,

監査請求をした者が上記の程度に当該行為の存在及び内容を

知ることができたと解される場合には,

上記正当な理由の有無は,そのように解される時から相当な

期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである。

 

2 原審の適法に確定した事実関係によれば,

本件賃貸借契約の締結に至る事実経過については

逐一新聞報道されていたというのであるから,

本件賃貸借契約が締結されたこと自体については,

これに近接する時点において,市の一般住民が相当の注意力をもって

調査すれば客観的にみてこれを知ることができたということができる。

 

そして,記録によれば,

① 本件監査請求の代理人である弁護士は,

昭和63年11月10日ころ,

市の内部資料を入手したが,その中には,

本件賃貸借契約において定められた権利金及び

賃料の算定根拠に用いられた本件土地の更地価格が

1㎡当たり57万4750円であることを示す資料のほかに,

同62年4月1日時点の本件土地の1㎡当たりの

更地価格を71万5000円とする鑑定評価書,

これを64万9000円とする鑑定評価書が含まれていたこと,

② 上告人は,昭和63年11月17日付けで

自ら不動産鑑定士として本件賃貸借契約における

権利金及び賃料の額の適否について

意見書を作成したが,その内容は,

上記の権利金及び賃料の算定根拠となった本件土地の

1㎡当たりの更地価格57万4750円は,

類似地域の公示価格により算定される契約時点における

1㎡当たりの更地価格74万4000円と

比べて20%程度低くなっており,

権利金及び賃料を総合すると,対象不動産の価値に比して

低いと考えると結論付けたものであることが認められる。

 

そうすると,上告人は,市の内部資料により

本件賃貸借契約における権利金及び

賃料の算定根拠を知ることができたのであり,

これに基づいて,遅くとも昭和63年11月17日ころまでには,

上記権利金及び賃料が適正な額より低いとする旨の

不動産鑑定士としての意見を明らかにすることができたのであるから,

そのころには既に本件賃貸借契約の締結について

直ちに監査請求をするに足りる程度に

その内容を認識していたというべきである。

 

このような上告人の認識に基づいて考えると,

平成元年1月20日にされた本件監査請求は

前記の相当な期間内にされたものということができず,

本件監査請求に法242条2項ただし書にいう

正当な理由があるということはできない。

 

以上によれば,本件監査請求に上記正当な理由がないとした原審の判断は,

結論において是認することができ,

原判決に所論の違法はない。

論旨は採用することができない。

 

第3 職権による検討

第1審仙台地方裁判所平成2年(行ウ)

第2号事件(以下「第2事件」という。)のうち

被上告人B5に対する請求に係る部分は,

上告人,原審控訴人E,同F,同G,同H及び

同I(以下「上告人外5名」という。)が,

亡Dが被上告人学園に対してした前記第1の2(2)の

賃借権持分の譲渡につき,亡Dを相続した被上告人B5には

本件賃貸借契約により承諾料7954万5887円の

支払義務があると主張して,法242条の2第1項4号に基づくものとして,

市に代位し,上記承諾料及びこれに対する

遅延損害金の支払を請求した事件である。

 

原審は,同請求に係る訴えを適法とした上で,

その請求を棄却すべきものとした。

しかしながら,上記請求のうち

遅延損害金請求は同号所定の怠る事実に係る

相手方に対する損害賠償の請求に該当するから,

同請求に係る訴えは適法であるが,承諾料請求は,

契約に基づき債務の履行を求めるものであり,

同号所定のいずれの請求にも該当せず,

他にこのような請求を許容する法律の定めはないから,

同請求に係る訴えは不適法である。

 

そうすると,原判決中,上記承諾料請求を棄却すべきものとした部分には,

判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるから,

原判決中上記部分を破棄して,第1審判決中同部分を取り消し,

上告人外5名の上記請求に係る訴えを却下すべきである。

 

第4 上告代理人小野寺信一,同半澤力の上告理由のうち

第2事件(前記承諾料請求の部分を除く。)に係る部分について

 

原審の適法に確定した事実関係の下においては,

所論の点に関する原審の判断は,正当として是認することができ,

その過程に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

 

第5 訴訟費用の負担について

以上のとおり,前記承諾料請求に係る部分について,

原判決を破棄し,第1審判決を取り消して,

上告人外5名の被上告人B5に対する

上記請求に係る訴えを却下するとともに,

その余の上告を棄却すべきところ,本件は,

上告人外5名のうち上告人のみが上告をしたものであるから,

上告人と被上告人らとの間において生じた

訴訟費用についてのみ負担の裁判をすべきである。

 

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