堤防の基礎地盤に破堤の要因がある場合と河川管理の瑕疵

(平成6年10月27日最高裁)

事件番号  平成2(オ)1650

 

最高裁判所の見解

(一) 原審の適法に確定した事実関係によれば、

(1) 本件堤防は、大正一〇年に策定された

e川上流改修計画に基づき、同一五年から昭和五年にかけて、

旧堤の堤防法線を整正する大改修工事によって築造されたものであるが、

右工事の計画及び施行等については、格別不合理な点はないこと、

(2) c川については、明治一九年以降数次にわたる改修計画が立てられ、

昭和四〇年には河川法に基づくe川水系工事実施基本計画が策定されたが、

右計画に格別不合理な点はなく、その後本件堤防は

右計画に準拠して改修、整備が実施されていること、

(3) 本件災害発生当時における本件堤防の天端の高さ及び幅、

法勾配、小段等の横断形状は、本件災害発生後の

同五一年一〇月に施行された河川管理施設等構造令の

基準に十分適合していること、

(4) 過去において本件堤防の堤体若しくは

裏法尻に法崩れなどの変状が発見されたことはなく、

同三四年九月、同三五年八月及び同三六年六月に三年連続して

発生した三大洪水はいずれも従来の計画高水流量と

計画高水位を大幅に上回るものであったが、

本件堤防は、これらを安全に流下させており、

本件災害発生当時においても、同五一年九月八日の

夜半から同月一一日午後二時ころまでの間の断続的な

計画高水位に迫る三波にわたる洪水にも耐え、

その間は本件堤防に法崩れや漏水などの異常現象は

何ら発生しなかったこと、などが明らかである。

 

これによれば、少なくとも本件堤防の基礎地盤を除く堤体部分には、

破堤原因となるような欠陥は存在せず、その築堤、

改修及び整備、管理等の面において、

格別不合理なものがあったとは認められない。

 

(二) 次に、原審は、堤体上に多量の降雨があったこと及び

高い水位が長時間継続したことを、

本件浸潤破堤の要因として挙げている。

 

そして、原審の適法に確定したところによれば、

本件破堤前後の降雨は年間降雨量の二分の一ないし

三分の一に相当する多量のものであり、

高い水位の継続時間も前記の三大洪水をはるかにしのぐ

規模のものであった、というのである。

 

しかし、原審も、降雨量や高い水位の継続時間が

右のような程度に達していたとしても、

そのことだけからは浸潤線が上昇して破堤に至るものとは

認められないと判断しており、右認定判断に不合理な点はない。

 

そうとすれば、被上告人において、

事前に右のような程度の降雨及び高い水位の継続時間を想定して

何らかの措置を講じていなかったとしても、

これをもって河川管理の瑕疵があったということはできない。

 

(三) また、原審は、浸潤作用との関係で

堤体の安全性に影響を及ぼす難透水性層の不連続という

特異な地質条件が本件堤防の基礎地盤に存在した可能性があることを

本件浸潤破堤の要因として否定し得ない、としている。

 

そして、原判決挙示の証拠の中には、

難透水性層の不連続という地質条件の下では、

洪水の高い水位が継続した間、難透水性層の

不連続部分から多量の河川水が堤体に浸透し、

堤体内の浸潤線を異常な速度で上昇させ、

ついには破堤に至る可能性がある旨の実験的鑑定結果を

示した書証が存在し、その物理的機序自体に

特に不合理な点があるとはいえないが、

本件破堤箇所の基礎地盤に難透水性層の不連続があったという事実自体は、

立証されているわけではない。原審も、

本件浸潤破堤の要因を本件堤防の基礎地盤に存在した

難透水性層の不連続にあると断定しているわけではないと解される。

 

仮に、本件破堤の生じた本件堤防の基礎地盤に

難透水性層の不連続があり、そのことが

破堤の要因となったものであるとしても、

本件破堤が河川管理の瑕疵に

基づくものであるということはできない。

 

すなわち、堤防の改修、整備は、

予想される洪水等による災害に対処するため、

主として堤体についてこれを行い、その安全を

確保するのが通常であって、その基礎地盤については、

過去における災害時の異常現象等によって

欠陥のあることが明らかとなっているなど

特段の事情のある場合を除き、そのすべてについて、

あらかじめ安全性の有無を調査し、所要の対策を採るなどの

措置を講じなければならないものではない。

 

けだし、被上告人の管理する河川は多数に上り、

その堤防の基礎地盤の面積は広大なものであるから、

そのようなことは、財政面からも技術面からも

実際上不可能を強いるものであることは、

みやすいところであるからである。

 

本件堤防の基礎地盤については右のような

特段の事情が認められないのであるから、

相応の措置を講じていなかったとしても、

これをもって河川管理の瑕疵に当たるものということはできない。

 

(四) 以上の諸事情を総合的に考慮して判断すれば、

本件堤防は、計画高水位程度の高い水位の洪水を防御し得る高さと幅を有し、

工事実施基本計画に定める規模の洪水における

流水の通常の作用から予測される災害の発生を

十分に防止する効用を発揮し得る状態にあったものであり、

河川管理の特質に由来する前記の諸制約のもとでの

同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして

是認し得る安全性を備えていたものということができる。

 

そうすると、本件災害については、

被上告人に、河川管理の瑕疵があったとすることはできない。

 

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