報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについての判断基準

(平成15年10月16日最高裁)

事件番号  平成14(受)846

 

最高裁判所の見解

(1) 新聞記事等の報道の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては,

一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり

(新聞報道に関する最高裁昭和29年(オ)第634号

同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照),

テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の

社会的評価を低下させるか否かについても,

同様に,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として

判断すべきである。

 

そして,テレビジョン放送をされた報道番組によって

摘示された事実がどのようなものであるかという点についても,

一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として

判断するのが相当である。

 

テレビジョン放送をされる報道番組においては,

新聞記事等の場合とは異なり,視聴者は,

音声及び映像により次々と提供される情報を

瞬時に理解することを余儀なくされるのであり,

録画等の特別の方法を講じない限り,

提供された情報の意味内容を十分に検討したり,

再確認したりすることができないものであることからすると,

当該報道番組により摘示された事実が

どのようなものであるかという点については,

当該報道番組の全体的な構成,これに登場した者の発言の内容や,

画面に表示されたフリップやテロップ等の

文字情報の内容を重視すべきことはもとより,

映像の内容,効果音,ナレーション等の

映像及び音声に係る情報の内容並びに

放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して,判断すべきである。

 

このような見地に立って,

本件をみるに,前記の事実関係によれば,

次のことが明らかである。

 

① 本件放送の後半のI所長との対談の冒頭部分で,

Jキャスターは,今夜は,K株式会社が所沢市の

野菜のダイオキシン類汚染の調査をした結果である数字を,

あえて本件番組で発表するとした上で,本件フリップを示して

「野菜のダイオキシン濃度」が

「所沢(K株式会社調べ)0.64~3.80ピコg/g」

であると述べ,上記対談の中で,I所長は,

本件フリップにある「野菜」が

「ほうれん草をメインとする所沢産の葉っぱ物」

である旨の説明をしたが,その際,その最高値である

「3.80ピコg/g」がせん茶についての測定値であることを明らかにせず,

また,測定の対象となった検体の具体的品目,

個数及びその採取場所についても,明らかにしなかった。

 

② I所長は,上記対談の中で,

主にほうれん草を例として挙げて,

ほうれん草をメインとする所沢産の葉っぱ物の

ダイオキシン類汚染の深刻さや,その危険性について説明した。

 

③ 本件放送の前半の録画映像部分においては,

所沢市には畑の近くに廃棄物の焼却炉が多数存在し,

その焼却灰が畑に降り注いでいること,市農協は,

所沢産の野菜のダイオキシン類の分析調査を行ったが,

農家や消費者からの調査結果の公表の求めにもかかわらず,

これを公表していないこと等,所沢産の農産物,

とりわけ野菜のダイオキシン類汚染の深刻さや,

その危険性に関する情報を提供した。

 

④ 本件放送の翌日以降,

ほうれん草を中心とする所沢産の野菜について,

取引停止が相次ぎ,その取引量や価格が下落した。

 

これらの諸点にかんがみると,本件放送中の本件要約部分等は,

ほうれん草を中心とする所沢産の葉物野菜が全般的に

ダイオキシン類による高濃度の汚染状態にあり,

その測定値は,K株式会社の調査結果によれば,

1g当たり「0.64~3.80pgTEQ」

であるとの事実を摘示するものというべきであり

(以下,この摘示された事実を「本件摘示事実」という。),

その重要な部分は,ほうれん草を中心とする所沢産の葉物野菜が

全般的にダイオキシン類による高濃度の汚染状態にあり,

その測定値が1g当たり「0.64~3.80pgTEQ」

もの高い水準にあるとの事実であるとみるべきである。

 

(2) 次に,本件摘示事実の重要な部分について,

それが真実であることの証明があったか否かについてみるに,

前記確定事実によれば,K株式会社の調査結果は,

各検体1g当たりのダイオキシン類(コプラナーPCBを除く。)の測定値が,

せん茶(2検体)は3.60pgTEQ及び3.81pgTEQであり,

ほうれん草(4検体)は0.635pgTEQ,0.681pgTEQ,

0.746pgTEQ及び0.750pgTEQであり,

大根の葉(1検体)は0.753pgTEQであったというのであり,

本件放送を視聴した一般の視聴者は,

本件放送中で測定値が明らかにされた

「ほうれん草をメインとする所沢産の葉っぱ物」に

せん茶が含まれるとは考えないのが通常であること,

せん茶を除外した測定値は0.635~0.753pgTEQであることからすると,

上記の調査結果をもって,本件摘示事実の重要な部分について,

それが真実であることの証明があるといえないことは明らかである。

 

また,本件放送が引用をしていない

H教授らが行った前記調査の結果は,

「所沢産」のラベルが付けられた白菜(1検体)から

1g当たり3.4pgTEQのダイオキシン類(コプラナーPCBを除く。)が検出され,

所沢市内で採取されたほうれん草(1検体)から

1g当たり0.859pgTEQのダイオキシン類が検出されたというものである。

 

前記の本件摘示事実の重要な部分は,ほうれん草を

中心とする所沢産の葉物野菜が全般的に

ダイオキシン類による高濃度の汚染状態にあり,

その測定値が1g当たり「0.64~3.80pgTEQ」

もの高い水準にあることであり,

一般の視聴者は,放送された葉物野菜のダイオキシン類汚染濃度の測定値,

とりわけその最高値から強い印象を受け得ることにかんがみると,

その採取の具体的な場所も不明確な,

しかもわずか1検体の白菜の測定結果が本件摘示事実の

ダイオキシン類汚染濃度の最高値に比較的近似しているとの

上記調査結果をもって,本件摘示事実の重要な部分について,

それが真実であることの証明が

あるということはできないものというべきである。

 

したがって,原審の確定した前記の事実関係の下において,

本件摘示事実の重要な部分につき,

それが真実であることの証明があるとはいえない。

 

(3) そうすると,以上判示したところと異なる見解に立って,

本件摘示事実の重要な部分につき,H教授らによる

上記調査の結果をもって真実であることの証明があるものとして,

名誉毀損の違法性が阻却されるものとした原審の判断には,

判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 

論旨は理由があり,

原判決中上告人らの被上告人に対する請求に関する

部分は破棄を免れない。

 

そして,本件については,

本件摘示事実による名誉毀損の成否等について

更に審理を尽くさせる必要があるから,

上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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