契約に基づく債務の履行不能による損害賠償請求権の消滅時効の起算点

(平成10年4月24日最高裁)

事件番号  平成7(オ)2472

 

最高裁判所の見解

契約に基づく債務について不履行があったことによる損害賠償請求権は、

本来の履行請求権の拡張ないし内容の変更であって、

本来の履行請求権と法的に同一性を有すると見ることができるから、

債務者の責めに帰すべき債務の履行不能によって

生ずる損害賠償請求権の消滅時効は、

本来の債務の履行を請求し得る時から

その進行を開始するものと解するのが相当である

(大審院大正八年(オ)第五八五号同年一〇月二九日判決・

民録二五輯一八五四頁、最高裁昭和三三年(オ)第五九九号

同三五年一一月一日第三小法廷判決・

民集一四巻一三号二七八一頁参照)。

 

これを本件についてみるのに、前記事実関係の下においては、

上告人が本件土地をEに売却して

その旨の所有権移転登記を経由したことにより、

本件契約に基づく上告人の売主としての義務は、

上告人の責めに帰すべき事由に基づき履行不能となったのであるが、

これによって生じた損害賠償請求権の消滅時効は、

所有権移転許可申請義務の履行を請求し得る時、すなわち、

本件契約締結時からその進行を開始するのであり、また、

上告人が平成五年一月二五日ころにした消滅時効の援用は、

本来の履行請求権とこれに代わる損害賠償請求権との

法的同一性にかんがみれば、右損害賠償請求権についての

消滅時効を援用する趣旨のものと解し得るものである。

 

そうすると、右損害賠償請求権は、格別の事情がなければ、

上告人の右時効の援用によって

消滅することとなるはずのものである。

 

五 してみると、これと異なる見解に立って、

上告人のした消滅時効の援用が履行不能による

損害賠償請求権の帰すうを左右しないとして、

直ちに被上告人の本件請求を認容すべきものとした原審の判断には、

法令の解釈適用を誤った違法があり、

この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、

その余の上告理由につき判断するまでもなく、

原判決中、上告人の本件請求を認容した部分は破棄を免れない。

 

もっとも、本件においては、前示時効の進行開始後において

これを阻害する事由が存在したこと及び上告人において

消滅時効を援用することが信義則に照らして許されないと認めるべき

特段の事情があること等が主張されており、

これらの点につき更に審理を尽くさせる必要があるので、

右破棄部分につきこれを原審に差し戻すのが相当である。

 

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