丙市の市議会議員選挙に当選した直後に丁市への転出の届出をした当選人が

被選挙権の要件としての丙市の住所を失ったとはいえないとされた事例

(平成9年8月25日最高裁)

事件番号  平成9(行ツ)78

 

最高裁判所の見解

1 公選法一〇条一項五号、九条二項によれば、

「引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有すること」が

市町村議会議員の被選挙権の要件の一つとされているが、

ここにいう住所とは、生活の本拠、すなわち、

その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、

一定の場所がある者の住所であるか否かは、

客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより

決すべきものと解するのが相当である

(最高裁昭和二九(オ)第四一二号同年一〇月二〇日大法廷判決・

民集八巻一〇号一九〇七頁、最高裁昭和三二年(オ)第五五二号

同年九月一三日第二小法廷判決・裁判集民事二七号八〇一頁、

最高裁昭和三五年(オ)第四号同年三月二二日第三小法廷判決・

民集一四巻四号五五一頁参照)。

 

また、公選法九九条は、当選人は、

その選挙の期日後に被選挙権を有しなくなったときは、

当選を失うものとし、公選法九七条一項は、

当選人が九九条等の規定により当選を失ったときは、

直ちに選挙会を開き、法定得票数以上の得票者で

当選人とならなかったものの中から当選人を

定めなければならないとしている。

 

しかし、当選人としての地位は、議員としての身分を

取得した時をもって終了するから、

その者がいったん議員としての身分を取得した後においては、

被選挙権を有しなくなったことを理由として

公選法九七条一項の規定による繰上補充を行うことはできず、

右の者の被選挙権の有無については、

議員の失職について定める地方自治法一二七条により、

議会がこれを決定すべきことになる。

 

2 これを本件についてみるに、前記事実関係によれば、

Dが従前東村山市に生活の本拠としての

住所を有していたことは明らかである

(記録によれば、同市を本籍地とし、

昭和四二年出生以来同市に居住し、本件選挙当時は、

母、弟らと同居していたこともうかがわれる。)ところ、

Dは、本件選挙の当選人の告示の後、当選を辞退し、

次点者のEを当選人とすることを目的として、急きょ、

松戸市への転出の届出をしたものであり、

同女が単身転出したとする先は、父の部下一家が居住する社宅であった上、

その後、わずかの間に、いずれも松戸市内とはいえ、

二度にわたり転居の届出をしているというのである。

 

そうすると、仮に、Dが、

現実に平成七年四月二六日以降松戸市aで起居し、

同年五月二九日以降は松戸市cのマンションを

生活の本拠としているとしても、

松戸市aの前記社宅は生活の本拠を定めるまでの

一時的な滞在場所にすぎず、せいぜい居所にとどまるものといわざるを得ない。

 

これによって、従前の全生活の中心であった

東村山市から直ちに松戸市に生活の本拠が

移転したものとみることはできない。

 

原審は、住所を移転させる強固な目的で転出届をしていることを、

住所移転を肯定する理由の一つとして説示するが、前示のとおり、

一定の場所が住所に当たるか否かは、

客観的な生活の本拠たる実体を

具備しているか否かによって決すべきものであるから、

主観的に住所を移転させる意思があることのみをもって

直ちに住所の設定、喪失を生ずるものではなく、また、

住所を移転させる目的で転出届がされ、

住民基本台帳上転出の記録がされたとしても、

実際に生活の本拠を移転していなかったときは、

住所を移転したものと扱うことはできないのである。

 

結局、原審の認定する事実によれば、記録に現れた

その他の事情を勘案しても、平成七年四月三〇日までに、

Dの生活の本拠が松戸市内に移転し、

Dが東村山市内に有していた住所を

失ったとみることは到底できないものというほかはない。

 

本件選挙による当選人Dは、右に説示したとおり、

平成七年四月三〇日までに東村山市の

住所を失ったということができない以上、

当選人としての地位を有したまま同年五月一日に至り、

同日から東村山市議会議員としての身分を取得したこととなり、

その後住所を有しなくなったために被選挙権を失ったとしても、

もはや市選挙管理委員会又は選挙会において

被選挙権の喪失を理由とする繰上補充の手続を執ることはできず、

被選挙権を失ったことを理由として議員の職を失うかどうかは、

東村山市議会の決定にゆだねられるものと解さざるを得ない。

 

したがって、本件繰上補充は、当選人であるDが

被選挙権を失っていなかったにもかかわらず、

これを失ったものと誤認してされた点において違法であり、

Eの当選には無効事由があるというべきである。

 

そうすると、この趣旨をいう上告人らからの

審査の申立てを棄却した被上告人の

本件裁決には違法があることになる。

 

3 以上によれば、原判決には法令の解釈適用を

誤った違法があるものといわざるを得ず、

右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

 

論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、

その余の上告理由について判断するまでもなく、

原判決は破棄を免れない。

 

そして、さきに説示したところによれば、

上告人らの請求は理由があるから、

これを認容することとする。

 

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