広島の養父・妻殺害事件

(平成23年6月7日最高裁)

事件番号  平成19(あ)2275

 

本件は,被告人が,(1) 自己が清算人を務め,かつ,

その債務につき連帯保証人である会社の清算方針を巡って

意見が対立していた養父から会社の実権を奪うとともに

養父の生命保険金を詐取することを目的として,

夜間人気のない場所に養父を呼び出した上,

その頭部を鉄アレイで殴打し,さらに自動車に乗せ,

自らが運転してコンクリートブロック壁に同車を衝突させ,

養父を交通事故に見せかけて殺害し,生命保険会社から

多額の保険金をだまし取った殺人,詐欺の事案,

(2) 上記保険金は第三者の手に渡り被告人の手元に残せなかったものの,

これを取り戻すことができるなどと妻に嘘を言い続け,

その嘘の発覚により同女が愛想を尽かし,

被告人のもとを去ることになるのを恐れて

いっそ殺害してしまおうと考え,同女の飲み物に睡眠導入剤を混入し,

入浴中の同女の抵抗を排してその顔を浴槽の湯に漬けて溺死させた上,

死体を海に投棄した殺人,死体遺棄と,これに伴って

生命保険金をだまし取った詐欺の事案,

(3) その後,交際中の女性宅から運転免許証を窃取し,

これを使って,口座を開設して銀行から預金通帳を,

携帯電話機の販売店2店から携帯電話機を

それぞれだまし取った窃盗1件,有印私文書偽造,

同行使,詐欺各3件,不正に入手したクレジットカードを使用して

テレビゲーム機をだまし取るなどした詐欺10件の事案である。

 

量刑上重視すべき(1)及び(2)の殺人等の各事実について情状をみると,

その動機は,(1)については利欲性の高い悪質なもので,

(2)についても極めて自己中心的かつ身勝手なものであり,

いずれも酌量すべき点は認められない。その態様は,

(1)においては,交通事故死に見せかけるために綿密に計画を練って

下準備を施し,夜間,養父を人気のない場所に

呼び出し敢行した計画性の高いものである上,

鉄アレイで頭蓋骨が砕けるほど強打しても

養父が絶命しなかったため病院に連れて行くなどと

嘘を告げて車に乗せ,交通事故を装ってコンクリートブロック壁に

車を衝突させたという卑劣かつ残忍なものである。

 

実子同様に被告人を育て,会社の跡取りとして

金銭的な援助もしてきた養父に対し,

正に恩を仇で返す非道なものである。

 

また,(2)においては,あらかじめ用意した

睡眠導入剤を妻の飲み物に混入するなどして

敢行した計画的なものであり,

一緒に入浴し浴槽につかって眠り始めた妻の頭部を湯の中に漬け,

目を覚まして抵抗する同女を浴槽内に転倒させ

その顔を湯に漬け続けて殺害したという

執ようかつ非情なものである。

 

海で事故死したように偽装するため,

死体を寝ているように見せかけ,

夜釣りの下見に行くなどと偽って子らと

共に車で岸壁まで搬送して海中に投棄しており,

誠に冷酷である。2名の尊い生命を奪った結果は,

極めて重大である。被告人と被害者である妻との間の長男は

被告人への感情を和らげ生存を願うものの,

多くの遺族の処罰感情は極めて厳しい。

 

そうすると,被告人には前科がないこと,

養父殺害につき保険金目的であることを否定し,また,

背景にはかつての養母の死が養父による

殺害であるとの思いもあると述べるものの,

その余は他の事件も含め事実関係を認めて

反省の態度を示していることなど,

被告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても,

被告人の刑事責任は極めて重大であり,

原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は,

やむを得ないものとして当裁判所もこれを是認せざるを得ない。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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