抵当権者が抵当不動産の所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することの可否

(平成11年11月24日最高裁)

事件番号  平成8(オ)1697

 

最高裁判所の見解

被上告人は、平成元年一一月一〇日、Eとの間で、

同人所有の第一審判決別紙物件目録記載の

土地及び建物(以下、「本件不動産」といい、

このうち建物を「本件建物」という。)について、

債務者をE、極度額を三五〇〇万円、被担保債権の範囲を

金銭消費貸借取引等とする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)の

設定契約を締結した。

 

被上告人は、平成元年一一月一七日、Eに対し、二八〇〇万円を、

平成二年二月以降毎月一五日に元金一一万七〇〇〇円を

当月分の利息と共に支払うなどの約定により貸し付けた

(以下、これによる債権を「本件貸金債権」という。)。

 

上告人らは、平成五年五月ころから、

本件建物を権原なく占有している。

 

被上告人は、本件貸金債権の残額につき

期限の利益が失われた後である

平成五年九月八日、名古屋地方裁判所に対し、

本件不動産につき本件根抵当権の実行としての競売を申し立て、

同裁判所は、同日、不動産競売の開始決定をした。

 

右事件の開札期日は平成七年五月一七日と指定されたが、

上告人らが本件建物を占有していることにより

買受けを希望する者が買受け申出をちゅうちょしたため、

入札がなく、その後競売手続は進行していない。

 

本件は、被上告人が、上告人らが

本件建物を権原なく占有していることが

不動産競売手続の進行を阻害し、

そのために本件貸金債権の満足を受けることができないとして、

上告人らに対し、本件根抵当権の被全するため、

Eの本件建物の所有権に基づく

妨害排除請求権を代位行使して、

本件建物の明渡しを求めるものである。

 

原審は、次のように判示し、

被上告人の請求を認容すべきものとした。

 

本件不動産についての不動産競売手続が進行しないのは、

上告人らが本件建物を占有していることにより

買受けを希望する者が買受け申出をちゅうちょしたためであり、

この結果、被上告人は、本件貸金債権の

満足を受けることができなくなっている。

 

したがって、被上告人には、本件貸金債権を保全するため、

Eの本件建物の所有権に基づく妨害排除請求権を

代位行使する必要があると認められる。

 

被上告人が請求することができるのは、

本件建物の所有者であるEへの明渡しに限定されるものではなく、

被上告人は、保全のために必要な行為として、

上告人らに対し、本件建物を被上告人に

明け渡すことを求めることができる。

 

抵当権は、競売手続において実現される抵当不動産の交換価値から

他の債権者に優先して被担保債権の弁済を受けることを

内容とする物権であり、

不動産の占有を抵当権者に移すことなく設定され、

抵当権者は、原則として、抵当不動産の所有者が

行う抵当不動産の使用又は収益について干渉することはできない。

 

しかしながら、第三者が抵当不動産を不法占有することにより、

競売手続の進行が害され適正な価額よりも

売却価額が下落するおそれがあるなど、

抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の

優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、

これを抵当権に対する侵害と評価することを妨げるものではない。

 

そして、抵当不動産の所有者は、

抵当権に対する侵害が生じないよう抵当不動産を

適切に維持管理することが

予定されているものということができる。

 

したがって、右状態があるときは、抵当権の効力として、

抵当権者は、抵当不動産の所有者に対し、

その有する権利を適切に行使するなどして右状態を是正し

抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める

請求権を有するというべきである。そうすると、

抵当権者は、右請求権を保全する必要があるときは、

民法四二三条の法意に従い、

所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を

代位行使することができると解するのが相当である。

 

なお、第三者が抵当不動産を不法占有することにより

抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の

優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、

抵当権に基づく妨害排除請求として、

抵当権者が右状態の排除を求めることも

許されるものというべきである。

 

最高裁平成元年(オ)第一二〇九号同三年三月二二日第二小法廷判決・

民集四五巻三号二六八頁は、以上と抵触する限度において、

これを変更すべきである。

 

本件においては、本件根抵当権の被担保債権である

本件貸金債権の弁済期が到来し、被上告人が

本件不動産につき抵当権の実行を申し立てているところ、

上告人らが占有すべき権原を有することなく

本件建物を占有していることにより、

本件不動産の競売手続の進行が害され、

その交換価値の実現が妨げられているというのであるから、

被上告人の優先弁済請求権の行使が困難と

なっていることも容易に推認することができる。

 

右事実関係の下においては、

被上告人は、所有者であるEに対して

本件不動産の交換価値の実現を妨げ被上告人の

優先弁済請求権の行使を困難とさせている

状態を是正するよう求める請求権を有するから、

右請求権を保全するため、Eの上告人らに対する

妨害排除請求権を代位行使し、

Eのために本件建物を管理することを目的として、

上告人らに対し、直接被上告人に本件建物を

明け渡すよう求めることができるものというべきである。

 

本件請求は、本件根抵当権の

被担保債権をもって代位の原因とするが、

本件根抵当権に基づいて、その交換価値の

実現を阻害する上告人らの占有の排除を求めるため、

所有者に代位して、上告人らに対して

本件建物の明渡しを請求する趣旨を

含むものと解することができるから、

被上告人の請求を認容すべきものとした原審の判断は、

結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

 

よって、裁判官奥田昌道の補足意見があるほか、

裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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