弁護士法56条1項,弁護士法57条1項

(平成18年9月14日最高裁)

事件番号  平成15(行ヒ)68

 

この裁判では、

外国法人から賃借建物の明渡しに関する交渉を依頼された弁護士が

相手方から受領した解決金について依頼者に虚偽の報告をしたことなどを

懲戒事由としてされた同弁護士に対する所属弁護士会による

業務停止3月の懲戒処分が裁量権の逸脱又は

濫用に当たらないとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

(1) 弁護士に対する所属弁護士会及び上告人(以下,両者を含む意味で

「弁護士会」という。)による懲戒の制度は,

弁護士会の自主性や自律性を重んじ,

弁護士会の弁護士に対する指導監督作用の

一環として設けられたものである。

 

また,懲戒の可否,程度等の判断においては,

懲戒事由の内容,被害の有無や程度,

これに対する社会的評価,被処分者に与える影響,

弁護士の使命の重要性,職務の社会性等の

諸般の事情を総合的に考慮することが必要である。

 

したがって,ある事実関係が「品位を失うべき非行」といった

弁護士に対する懲戒事由に該当するかどうか,

また,該当するとした場合に懲戒するか否か,

懲戒するとしてどのような処分を選択するかについては,

弁護士会の合理的な裁量にゆだねられているものと解され,

弁護士会の裁量権の行使としての懲戒処分は,

全く事実の基礎を欠くか,又は社会通念上著しく妥当性を欠き,

裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り,

違法となるというべきである。

 

(2) 弁護士倫理規定(平成2年3月2日日本弁護士連合会臨時総会決議。

弁護士職務基本規程(平成16年日本弁護士連合会会規第70号)の

施行により平成17年4月1日廃止)は,信義に従い,

誠実かつ公正に職務を行うこと(4条),名誉を重んじ,

信用を維持するとともに,常に品位を高め

教養を深めるように努めること(5条)という基本倫理を掲げた上,

依頼者との関係において,良心に従い,

依頼者の正当な利益を実現するよう努めなければならないこと(19条),

依頼者に対し,事件の経過及びその帰すうに影響を及ぼす事項を

必要に応じ報告し,事件の結果を遅滞なく

報告しなければならないこと(31条),

事件に関する金品の清算及び引渡し並びに預かり品の

返還を遅滞なく行わなければならないこと(40条)を宣明している。

 

上記の事件処理の報告義務は,委任契約から生ずる

基本的義務(民法645条)であり,依頼者に対し

適切な自己決定の機会を保障するためにその前提となる

判断材料を提供するという趣旨で,事件を受任した

弁護士が負うべき重要な義務である。

 

また,金品の引渡し等の義務も,委任契約から生ずる

基本的な義務である(民法646条)。

 

そうすると,特に依頼者のために預かった

金品に関する報告は重要なものというべきである。

 

さらに,依頼事項に関連して相手方や第三者から金品を預かった場合,

そのことを依頼者に報告することも報告義務の内容となるというべきである。

 

(3) 前記事実関係によれば,被上告人は,第2回分割金300万円を

平成6年11月30日に受領しながら,その報告をせず,かえって,

同年12月13日,Eから最新の情報の報告を求められたにもかかわらず,

同月21日及び28日にはいまだ受領していない旨の,また,

同7年1月6日には同日小切手で受領した旨の,

いずれも事実に反する報告をしたものである。

 

この点に関し,被上告人は,外為法の制約の下で,

取扱銀行に不審を抱かれないようにするため,

受領の日を偽る意図の下に上記のような報告をした旨主張するが,

DにもEにもその意図を説明していない。

 

そして,別文書による報告や電話等による口頭説明を含め,

真実の報告をせず,その事情の説明をしなかったことについて,

やむを得ない事情があったことはうかかがわれない。

 

また,追加金300万円については,被上告人は,

これを受け取ったこと,これをHに返還しようとしたこと及び同人から

頼まれて預かり保管したことを,依頼者に一切報告していない。

 

追加金300万円が,原審の説示するとおり,

依頼の趣旨に反しない要求をして受領したものであるとすれば,

本来,その受領の事実を報告した上で,

返還をすることについて了承を得るべきであるし,

相手方から再度預かるよう求められたときには,

そのことを依頼者に報告した上で,慎重な対応をすべきものである。

 

そうすると,被上告人の上記各行為は,

弁護士倫理規定31条,40条の趣旨に反し,

依頼者に不審感を抱かせるに足りるものといわざるを得ず,

原審認定に係る経緯や被上告人の主観的意図を考慮したとしてもなお,

上記各行為が弁護士法56条1項所定の

「品位を失うべき非行」に当たるとし,

業務停止3月の懲戒処分を相当とする旨の判断が社会通念上著しく

妥当を欠くものとはいえない。

 

したがって,本件懲戒処分が裁量権の逸脱又は

濫用に当たるということはできない。

 

なお,被上告人は,本件懲戒請求が,

報酬の支払を免れるための濫用的申立てであり,また,

懲戒請求者らの意思に基づかないものであって,

却下されるべきである旨主張するが,懲戒請求は,

弁護士会による懲戒権の発動を促す申立てにすぎず,

懲戒権発動の端緒となるものにすぎないから,

懲戒請求が不適法であることが当然に発動された

懲戒権の行使自体を違法とするものではなく,

被上告人の上記主張は,主張自体失当である。

 

また,被上告人は,第二東京弁護士会綱紀委員会において

変更後の事由(すなわち本件懲戒処分の前提とされている事由)について

弁明する機会を与えられなかったという

手続的瑕疵があると主張するが,綱紀委員会は,

懲戒委員会に審査を求めるか否かを調査する機関にすぎず,

その調査において,被請求人は,通知を受け,

期日に出頭し,陳述する権利を法律上認められているわけではない上

(弁護士法71条は,同法67条2項を準用していない。),

被上告人の主張を前提としても,

第二東京弁護士会綱紀委員会で問題とされた事由は

変更の前後を通じて実質的に同一の

事実関係を前提とするものということができるし,

その後の懲戒委員会での懲戒手続等においては,

変更後の事由に基づく懲戒請求を前提とし,

被上告人の弁明等も踏まえた審査が行われるものであることも

明らかである(弁護士法67条。被上告人の主張によっても,

その後の懲戒手続における手続的瑕疵はうかがわれない。)。

 

そうすると,被上告人の上記主張も失当というべきである。

 

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