後遺障害による逸失利益の算定に当たり事故後の別の原因による被害者の死亡を考慮することの許否
( 平成8年4月25日最高裁)
事件番号 平成5(オ)527
最高裁判所の見解
交通事故の被害者が事故に起因する傷害のために身体的機能の一部を喪失し、
労働能力の一部を喪失した場合において、
いわゆる逸失利益の算定に当たっては、
その後に被害者が死亡したとしても、
右交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、
近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの
特段の事情がない限り、右死亡の事実は
就労可能期間の認定上考慮すべきものではないと解するのが相当である。
けだし、労働能力の一部喪失による損害は、
交通事故の時に一定の内容のものとして発生しているのであるから、
交通事故の後に生じた事由によって
その内容に消長を来すものではなく、
その逸失利益の額は、交通事故当時における被害者の
年齢、職業、健康状態等の個別要素と平均稼働年数、平均余命等に関する
統計資料から導かれる就労可能期間に基づいて算定すべきものであって、
交通事故の後に被害者が死亡したことは、前記の特段の事情のない限り、
就労可能期間の認定に当たって考慮すべきものとはいえないからである。
また、交通事故の被害者が事故後に
たまたま別の原因で死亡したことにより、
賠償義務を負担する者がその義務の全部又は一部を免れ、
他方被害者ないしその遺族が事故により生じた損害の
てん補を受けることができなくなるというのでは、
衡平の理念に反することになる。
四 これを本件についてみるに、前記事実関係によれば、
Dは本件交通事故に起因する本件後遺障害により
労働能力の一部を喪失し、これによる損害を生じていたところ、
本件死亡事故によるDの死亡について
前記の特段の事情があるとは認められないから、
就労可能年齢六七歳までの就労可能期間の全部について
逸失利益を算定すべきである。
したがって、これと異なる判断の下に、
Dの死亡後の期間について本件後遺障害による
逸失利益を認めなかった原判決には、
法令の解釈適用を誤った違法があり、
その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、
原判決は上告人らの敗訴部分のうち
平成五年二月二三日付け上告状補充書による
不服申立て部分につき破棄を免れない。
そして、本件については、損害額全般について
更に審理を尽くさせる必要があるから、
右破棄部分につきこれを原審に差し戻すのが相当である。
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