愛知の立て籠もり発砲事件

(平成23年3月22日最高裁)

事件番号  平成21(あ)1802

 

本件は,被告人が,離婚した元妻に執着し,けん銃を準備した上,

被告人方に呼び出した元妻にこれを示して

復縁を求めたものの拒絶され,

更に復縁を迫るため,元妻を被告人方の

事務所に連れ込もうとしたところ,

一緒にいた被告人の長男及び次女が

これを阻止するため110番通報し,

警察官が被告人方に駆けつけたことから,

(1) 同警察官に対し,殺意をもって,

けん銃を1回発射してその頸部に命中させ,

同警察官の職務の執行を妨害したが,

同警察官に全治不明の傷害を負わせたにとどまり,

殺害の目的を遂げず(殺人未遂,公務執行妨害),

(2) 続けざまに,長男に対し,殺意をもって,

けん銃を1回発射してその左上腹部に命中させたが,

同人に加療約3か月間を要する傷害を負わせたにとどまり,

殺害の目的を遂げず(殺人未遂),

(3) その直後,元妻を被告人方の事務所内に連れ込むのを

妨げようとした次女に対し,けん銃を1回発射して

その右下腿部に命中させ,同人に

全治約2か月間を要する傷害を負わせ(傷害),

(4) 引き続き,元妻を上記事務所内に連れ込んで同人を不法に監禁し(監禁),

同人及び上記警察官を人質として立て籠もり,その間,

(5) 元妻に暴行を加えて,同人に全治約1週間を要する傷害を負わせ(傷害),また,

(6) 不特定若しくは多数の者の用に供される場所である

上記事務所前路上に向かって,被告人の検挙及び

人質の救出の職務に当たっていた防弾衣着用の別の警察官に対し,

殺意をもって,けん銃を1回発射してその左胸部に命中させ,

同警察官の職務の執行を妨害した上,同警察官を死亡させて殺害し

(殺人,公務執行妨害,銃砲刀剣類所持等取締法違反),

(7) その後投降した際,けん銃をこれに適合する実包と共に所持した

(銃砲刀剣類所持等取締法違反),という事案である。

 

被告人は,元妻との復縁に執着する余り,

けん銃を持ち出した上,被告人の行為を妨害しようとする者を

排除するなどのために本件一連の犯行に及んだものであって,

身勝手な動機に酌量の余地はない。

量刑上重視すべき(1),(2)及び(6)の各犯行についてみるに,

まず,(1)及び(2)の各犯行は,いずれも確定的殺意をもって,

至近距離からけん銃を発射するという危険性の高いものであり,

殺害するには至らなかったものの,いずれの被害者に対しても

重傷を負わせている。特に,(1)の犯行の被害者である警察官は,

重傷を負わされながら,その後被告人に5時間余りに

わたって救助を阻止された上,幸い一命は取りとめたものの,

胸部以下が不随になるという重い後遺障害を負っている。

 

そして,(6)の犯行は,上記職務に当たっていた

別の警察官を射殺したものであって,

凶悪な犯行であり,結果が重大であることはいうまでもない。

 

死亡した警察官の遺族や被害者らの処罰感情が厳しいのも当然であり,

本件各犯行が社会に与えた衝撃も大きい。

 

これらの事情に照らすと,被告人の刑事責任は

誠に重大というべきであり,殊に,適法に職務執行中の

警察官2名に対してけん銃を発射し,1名を殺害し,

1名にひん死の重傷を負わせたことからすれば,

被告人を死刑に処すべきであるとする

検察官の主張も理解できないではない。

 

しかしながら,他方において,(6)の犯行については,

被告人には未必的な殺意が認められるにとどまること,

被告人は,上記の経緯で本件一連の犯行を犯したものであって,

綿密,周到な計画性があったとはいえないこと,

被告人は被害者らやその遺族に対して謝罪の態度を示していること,

服役した前科がないことなどの事情が認められる。

 

そうすると,以上のような事情を総合考慮して,

被告人を無期懲役刑に処した第1審判決を維持した原判決について,

その刑の量定が甚だしく不当でこれを破棄しなければ

著しく正義に反するものとまでは認められない。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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