担当医師に説明義務違反

(平成18年10月27日最高裁)

事件番号  平成17(受)1612

 

この裁判は、

未破裂脳動脈りゅうの存在が確認された患者が

コイルそく栓術を受けたところ術中にコイルがりゅう外に

逸脱するなどして脳こうそくが生じ死亡した場合において

担当医師に説明義務違反がないとした

原審の判断に違法があるとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

前記事実関係によれば,Aの動脈りゅうの治療は,

予防的な療法(術式)であったところ,

医療水準として確立していた療法(術式)としては,

当時,開頭手術とコイルそく栓術という2通りの

療法(術式)が存在していたというのであり,

コイルそく栓術については,

当時まだ新しい治療手段であったとの鑑定人Fの指摘がある。

 

イ 記録によれば,本件病院の担当医師らは,

開頭手術では,治療中に神経等を損傷する可能性があるが,

治療中に動脈りゅうが破裂した場合にはコイルそく栓術の場合よりも

対処がしやすいのに対して,コイルそく栓術では,

身体に加わる侵襲が少なく,開頭手術のように

治療中に神経等を損傷する可能性も少ないが,

動脈のそく栓が生じて脳こうそくを発生させる場合があるほか,

動脈りゅうが破裂した場合には救命が困難であるという問題もあり,

このような場合にはいずれにせよ開頭手術が必要になるという

知見を有していたことがうかがわれ,また,

そのような知見は,開頭手術やコイルそく栓術を実施していた

本件病院の担当医師らが当然に有すべき知見であったというべきであるから,

同医師らは,Aに対して,少なくとも上記各知見について

分かりやすく説明する義務があったというべきである。

 

ウ また,前記事実関係によれば,Aが平成8年2月23日に

開頭手術を選択した後の同月27日の

手術前のカンファレンスにおいて,

内けい動脈そのものが立ち上がっており,

動脈りゅう体部が脳の中に埋没するように存在しているため,

恐らく動脈りゅう体部の背部は確認できないので,

貫通動脈や前脈絡叢動脈をクリップにより閉そくしてしまう可能性があり,

開頭手術はかなり困難であることが新たに

判明したというのであるから,本件病院の担当医師らは,

Aがこの点をも踏まえて開頭手術の危険性とコイルそく栓術の

危険性を比較検討できるように,Aに対して,

上記のとおりカンファレンスで判明した開頭手術に伴う問題点について

具体的に説明する義務があったというべきである。

 

エ 以上からすれば,本件病院の担当医師らは,Aに対し,

上記イ及びウの説明をした上で,

開頭手術とコイルそく栓術のいずれを選択するのか,

いずれの手術も受けずに保存的に経過を見ることとするのかを

熟慮する機会を改めて与える必要があったというべきである。

 

オ そうすると,本件病院の担当医師らは,

Aに対し,前記2(4)及び(6)の説明内容のような

説明をしたというだけでは説明義務を尽くしたということはできず,

同医師らの説明義務違反の有無は,上記イ及びウの説明をしたか否か,

上記エの機会を与えたか否か,仮に機会を与えなかったとすれば,

それを正当化する特段の事情が有るか否かによって

判断されることになるというべきである。

 

しかるに,原審は,上記の各点について確定することなく,

前記2(4)及び(6)の説明内容のような説明をしただけで,

開頭手術が予定されていた日の前々日のカンファレンスの結果に基づき,

カンファレンスの翌日にコイルそく栓術を実施した

本件病院の担当医師らに説明義務違反がないと判断したものであり,

この判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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