教授の発言等と業務命令、戒告処分

(平成19年7月13日最高裁)

事件番号  平成18(受)347

 

最高裁判所の見解

(1) 前記事実関係等によれば,本件発言は,

その見出しや発言内容に照らして,

第二次世界大戦下において我が国が

採った諸政策には功罪両面があったのであるから,

その一方のみを殊更に強調するような歴史観を強制すべきではなく,

そのような見地からみて,人権センターの展示内容には偏りがあるという

上告人の意見を表明するにすぎないものと認められる。

 

このような本件発言の趣旨,内容等にかんがみると,

本件発言は,これが地元新聞紙上に掲載されたからといって,

被上告人Y の社会的評価の低下毀損を生じさせるものであるとは認め難い。

 

また,原審が懲戒を基礎付ける事由として挙げる

上記2(6)①ないし③の上告人の講義方法等についても,

それが大学における講義等の教育活動の一環として

されたものであることなどを考慮すると,

それのみを採り上げて直ちに本件就業規則所定の

懲戒事由に該当すると認めるのは困難というほかない。

 

そうすると,本件戒告処分は,

それが本件就業規則において定められた

最も軽微な懲戒処分であることを考慮しても,

客観的に合理的と認められる理由を欠くものといわざるを得ないから,

懲戒権を濫用するものとして無効というべきである。

 

(2) また,被上告人Y は,使用者としての立場から,

教授等の職員に対して業務上の命令を発することが

できるものと解すべきところ,

被上告人Y の規程上, 教授会は学長の諮問機関としての

位置付けしか与えられておらず(A大学学則10条1項),

上記業務命令に係る権限の行使が特に教授会等の機関に専権的に

委任されていることをうかがわせるに足りる趣旨の規定も見当たらない。

 

したがって,被上告人Y の代表者である理事長は,

上告人に対し,業務上の必要性等にかんがみ,

教授会への出席その他の教育諸活動をやめるよう命ずる

業務命令を発することも許されるものと解される。

 

そして,本件要請は,被上告人Y が上告人に対し,

理事長名の文書で教授会への出席その他の

教育諸活動をやめるよう求めるものであり,

これに反する行動を不問に付する趣旨をうかがうこともできないから,

単に上告人に対し上記活動の自粛を求める趣旨に

とどまるものと解することはできない。

 

そうすると,本件要請は,被上告人Y が

使用者としての立場から上告人に対して

発した業務命令であることは明らかであり,

その無効確認を求める訴えは適法と解される。

 

なお,本件要請が本件教授会の決議を受けて

されたものであることや,

本件要請において「お辞め下さい。」

という文言が用いられていることは,

上記判断を左右するものではない。

 

そして,前記事実関係等によれば,被上告人Y は,

上告人が本件大学の教員として不適切な人物であり,

辞職してもらうのが適当との判断の下に,執拗に辞職を勧奨し,

上告人が同勧奨に応じなかったことから,

懲戒に値する事由がないにもかかわらず,

上告人を本件戒告処分に付した上,さらに,

何ら業務上の必要性がないにもかかわらず,

教授として最も基本的な職責である教授会への出席及び

教育諸活動を停止する旨の業務命令である本件要請をし,かつ,

本件訴訟提起後に撤回されたとはいうものの,

本件大学短期大学部に新たに設けられた一室において,

通常大学教授の本来的業務とは考えられず,

上告人の専攻分野とも関連性のない学園史の

英訳等の業務に従事させるという不利益を殊更に

課したものということができるのであって,これは,

制裁的意図に基づく差別的取扱いであるとみられても

やむを得ない行為である。

 

そうすると,本件要請は,業務上の必要性を欠き,

社会通念上著しく合理性を欠くものといわざるを得ず,

業務命令権を濫用するものとして

無効であることは明らかというべきである。

 

(3) さらに,前記事実関係等によれば,被上告人Yらは,

上告人に懲戒に値する事由がないにもかかわらず,

審査委員会において,上告人は本件大学の教員として

不適切な人物と判断せざるを得ず,

辞職してもらうのが適当との結論を出した上,

本件教授会1(被上告人Y を除く。)及び

同2の決議に賛成したというのであるから,

これが上告人の名誉を毀損する

不法行為に当たることは論をまたない。

 

被上告人Y らが審査委員会や上記教授会の

一構成員として審査又は決議に加わったという事情は

上記判断を左右するものではない。

 

以上によれば,本件要請の無効確認を求める訴えを不適法とし,

その余の請求に理由がないとした原審の判断には,

判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 

論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。

そして,本件戒告処分等の無効確認請求を認容し,

被上告人Y らに対する損害賠償請求を200万円の限度で

認容した第1審判決の結論は正当であるから,

被上告人らの控訴を棄却すべきである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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