民法715条1項所定の使用者と被用者の関係
(平成16年11月12日最高裁)
事件番号 平成16(受)230
この裁判では、
暴力団の最上位の組長と下部組織の構成員に
民法715条1項所定の使用者と被用者の関係があるかについて
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
記事実関係等によれば,①甲組は,
その威力をその暴力団員に利用させ,
又はその威力をその暴力団員が利用することを容認することを
実質上の目的とし,下部組織の構成員に対しても,
甲組の名称,代紋を使用するなど,その威力を利用して
資金獲得活動をすることを容認していたこと,
②上告人は,甲組の1次組織の構成員から,また,
甲組の2次組織以下の組長は,それぞれその所属組員から,
毎月上納金を受け取り,上記資金獲得活動による収益が
上告人に取り込まれる体制が採られていたこと,
③上告人は,ピラミッド型の階層的組織を形成する甲組の頂点に立ち,
構成員を擬制的血縁関係に基づく服従統制下に置き,
上告人の意向が末端組織の構成員に至るまで伝達徹底される体制が
採られていたことが明らかである。
以上の諸点に照らすと,上告人は,甲組の下部組織の構成員を,
その直接間接の指揮監督の下,甲組の威力を利用しての
資金獲得活動に係る事業に従事させていたということができるから,
上告人と甲組の下部組織の構成員との間には,
同事業につき,民法715条1項所定の
使用者と被用者の関係が成立していたと解するのが相当である。
また,上記の諸点及び①暴力団にとって,
縄張や威力,威信の維持は,その資金獲得活動に不可欠のものであるから,
他の暴力団との間に緊張対立が生じたときには,
これに対する組織的対応として暴力行為を伴った
対立抗争が生ずることが不可避であること,
②甲組においては,下部組織を含む
甲組の構成員全体を対象とする慶弔規定を設け,
他の暴力団との対立抗争に参加して服役した者のうち
功績のあった者を表彰するなど,その資金獲得活動に伴い
発生する対立抗争における暴力行為を賞揚していたことに照らすと,
甲組の下部組織における対立抗争において
その構成員がした殺傷行為は,甲組の威力を利用しての
資金獲得活動に係る事業の執行と密接に関連する行為というべきであり,
甲組の下部組織の構成員がした殺傷行為について,
上告人は,民法715条1項による
使用者責任を負うものと解するのが相当である。
そして,前記事実関係等に照らせば,Oの本件殺害行為は,
甲組の下部組織である丙組と乙組系の暴力団との間に対立が生じた中で,
甲組の威力,威信を維持回復するための対立抗争行為として
行われたものとみることができるから,
上告人の事業の執行と密接に関連する行為として,
上告人が使用者責任を負うものというべきである。
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