林地開発許可の取消訴訟と開発区域の周辺住民の原告適格

(平成13年3月13日最高裁)

事件番号  平成8(行ツ)180

 

最高裁判所の見解

(1)行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,

同条にいう当該処分の取消しを求めるにつき

「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは

法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に

侵害されるおそれのある者をいうのであり,

当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を

専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,

それが帰属する個々人の個別的利益としても

これを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,

このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,

当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,

当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。

 

そして,当該行政法規が,不特定多数者の具体的利益を

それが帰属する個々人の個別的利益としても

保護すべきものとする趣旨を含むか否かは,

当該行政法規の趣旨・目的,当該行政法規が当該処分を通して

保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して

判断すべきである(最高裁平成元年(行ツ)第130号

同4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6号571頁,

最高裁平成6年(行ツ)第189号同9年1月28日第三小法廷判決・

民集51巻1号250頁参照)。

 

(2)上記の見地に立って,本件訴えについての

被上告人らの原告適格について検討する。

 

ア 本件において,被上告人B6及び同B7は,

本件開発区域に近接する住居に居住しており,

本件開発許可に基づく開発行為によって起こり得る土砂の流出又は

崩壊その他の災害あるいは水害により,

その生命,身体等を侵害されるおそれがあると主張している。

 

そこで検討するのに,森林法10条の2第2項1号は,

当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて,

当該開発行為により当該森林の周辺の地域において

土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがないことを,

また,同項1号の2は,当該開発行為をする森林の現に有する

水害の防止の機能からみて,当該開発行為により

当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがないことを

開発許可の要件としている。

 

これらの規定は,森林において必要な防災措置を講じないままに

開発行為を行うときは,その結果,

土砂の流出又は崩壊,水害等の災害が発生して,

人の生命,身体の安全等が脅かされるおそれがあることにかんがみ,

開発許可の段階で,開発行為の設計内容を十分審査し,

当該開発行為により土砂の流出又は崩壊,水害等の災害を

発生させるおそれがない場合にのみ許可をすることとしているものである。

 

そして,この土砂の流出又は

崩壊,水害等の災害が発生した場合における被害は,

当該開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民に

直接的に及ぶことが予想される。

 

以上のような上記各号の趣旨・目的,

これらが開発許可を通して保護しようとしている

利益の内容・性質等にかんがみれば,

これらの規定は,土砂の流出又は崩壊,水害等の

災害防止機能という森林の有する公益的機能の確保を図るとともに,

土砂の流出又は崩壊,水害等の災害による被害が直接的に

及ぶことが想定される開発区域に近接する

一定範囲の地域に居住する住民の生命,身体の安全等を

個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を

含むものと解すべきである。

 

そうすると,土砂の流出又は崩壊,水害等の災害による

直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は,

開発許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,

その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である。

 

これを本件についてみると,前記1の事実によれば,

本件開発区域は,過去に2度水害が発生しているa川の上流に位置し,

その水源となっており,本件開発行為は,

開発区域の面積が117.1044haに及ぶゴルフ場の造成を

目的とするものであって,同川の流域では

上記ゴルフ場を含め合計6箇所のゴルフ場建設が予定されているところ,

被上告人B6及び同B7は,a川に臨む山の斜面上に位置している

本件開発区域の下方で,同川に近接した高低差の

小さい地点に所在する住居に居住していることが

記録上明らかであるから,同被上告人らは,

土砂の流出又は崩壊,水害等の災害による直接的な

被害を受けることが予想される範囲の地域に

居住する者と認めるのが相当である。

 

原判決中,同被上告人らの原告適格を肯定した部分は,

これと同旨をいうものとして,是認することができる。

 

この点に関する論旨は採用することができない。

 

イ しかし,森林法10条の2第2項1号及び同項1号の2の規定から,

周辺住民の生命,身体の安全等の保護に加えて

周辺土地の所有権等の財産権までを個々人の個別的利益として

保護すべきものとする趣旨を含むことを読み取ることは困難である。

 

また,同項2号は,当該開発行為をする森林の現に有する

水源のかん養の機能からみて,当該開発行為により

当該機能に依存する地域における水の確保に

著しい支障を及ぼすおそれがないことを,

同項3号は,当該開発行為をする森林の

現に有する環境の保全の機能からみて,

当該開発行為により当該森林の周辺の地域における

環境を著しく悪化させるおそれがないことを

開発許可の要件としているけれども,

これらの規定は,水の確保や良好な環境の保全という

公益的な見地から開発許可の審査を行うことを

予定しているものと解されるのであって,

周辺住民等の個々人の個別的利益を

保護する趣旨を含むものと解することはできない。

 

本件においては,前記1の事実によれば,

被上告人B1,同B2,同B3及び同B4は,

本件開発区域内又はその周辺に所在する土地上に立木を所有し,

同B5は,a川から取水して農業を

営んでいるにすぎないというのであるから,

同被上告人らが本件開発許可の取消しを求める

原告適格を有するということはできず,他に,

同被上告人らが原告適格を有すると解すべき根拠は記録上も見当たらない。

 

原判決中,これと異なる見解に立って同被上告人らの

原告適格を肯定した部分には,法令の解釈適用を誤った違法があり,

この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

 

論旨はこの趣旨をいう限度で理由がある。

 

以上の次第で,原判決中,被上告人B1,同B2,同B3,同B4及び

同B5に関する部分については,破棄を免れない。

 

そして,以上に説示したところによれば,

同部分に係る本件訴えは却下すべきものであり,

これと結論を同じくする第1審判決は正当であるから,

同被上告人らの控訴はこれを棄却することとし,

原判決中その余の部分は正当であるから,

上告人のその余の上告を棄却することとする。

 

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