株主総会決議不存在確認,株主権確認請求事件

(平成16年7月8日最高裁)

事件番号  平成15(受)1259

 

最高裁判所の見解

(1) 前記の事実関係によれば,本件各売買契約締結直後の

平成11年12月31日当時の上告会社の財務状況は,

資産合計27億4061万8391円,

負債合計17億5261万1169円であり,資産のうち預金が

合計26億2428万4087円,機械装置が5070万9814円,

負債のうち仮受金が11億6344万9975円,

短期借入金が5億円であり,したがって,

本件各売買契約締結のころ,上告会社は,

26億円余りの預金債権を有し,約10億円の純資産を有していたものである。

 

そして,記録によれば,平成11年11月当時,

上告会社の代表取締役であった上告人A2が上告会社の

上記預金を引き出すことにつき妨げとなるような事情が

存在したことはうかがわれず,仮に,

この時点で上告会社を清算したとすれば,

上告会社の全株式を所有する上告人A2及び上告人A3は,

少なくとも負債との差額約10億円については容易に

現金化してこれを取得することができたものであって,

特段の事情のない限り,このような資産を有する会社であることを知りながら,

その会社の全株式を合計2億円で売却することは

不自然であるといわざるを得ず,このことは,

上告人A2及び上告人A3において,

本件各売買契約の要素たる売買対象物の価値について錯誤があったことをうかおり,

同人の誠実さを疑うことなく,

全面的に信頼していたこと等がうかがわれるのであり,

これらの事情等に照らすと,上記の事実をもって,

直ちに,上告人A2が上告会社の株式の実質的な価値について

正確に認識していたものとは認め難い。

 

そうすると,本件においては,上記特段の事情があるとは認め難い。

 

(2) また,Fは,上告人A2に対し,前記のとおり,

「関係する会社」において上告会社の株式を買い取ることを提案したのであるが,

前記の事実関係によれば,この「関係する会社」とは,

上告人A2及び上告人A3ら一族が株式等を有するなどして,

これらの者が支配権を有する会社を指すものであると解される。

 

そして,上告人A2及び上告人A3としては,

このような会社が上告会社の株式を買い取るというのであればともかく,

その買主たる被上告人らが,上告人A2及び上告人

A3ら一族と全く資本関係がなく,

同上告人らの支配が及ばない会社であるのに,

上告会社の全株式を合計2億円という,

上告会社の純資産額と比較して極めて安価な代金で売却したというのであれば,

特段の事情が存しない限り,上告人A2及び上告人A3の意思に,

被上告人らに対する支配関係又は上記株式の実質的な価値について

錯誤があったことがうかがわれるというべきである。

 

そして,上記のとおり,Fは,

「関係する会社」において上告会社の株式を買い取ることを提案していた者であるから,

上告人A2及び上告人A3に上記錯誤があったとすれば,

その点については当然に了知していたものとみるべきである。

 

(3) そして,上告人A2及び上告人A3は,

上記株式売買代金2億円の出所についても,

Fが上告人A2及び上告人A3らの支配するGから

Fの支配するHへ移動させた資金であると主張している。

 

仮に,上告人A2及び上告人A3の上記主張が事実とすれば,

同上告人らは,実質的には対価を得ることなく,

上告会社の資産をFの支配する被上告人らに譲渡したことになるが,

このような取引は通常考えられないから,このような事実の存在は,

上告人A2及び上告人A3において被上告人らが

上告人A2及び上告人A3らの支配する会社であると誤解していたことを

強くうかがわせることになるのである。

 

したがって,上記(1),(2)の事情の下においては,

本件各売買契約の相手方である被上告人らに対する支配関係に関し,

上告人A2及び上告人A3の意思に錯誤があったかどうかを判断するため,

上記売買代金2億円の支払資金の出所及び性質についての審理が

必要であるというべきである。

 

(4) さらに,記録によれば,① 上告人A2及び上告人A3は,

Fを信頼して同人に上告人A2及び上告人A3の資産管理を委託しており,

Fから上告人A2及び上告人A3の財産の保全,増加に

必要であるとして示された方策に全面的に従っていたことに加え,

② 本件各売買契約が行われた当時,外国銀行の上告会社の預金口座には

約26億円余りの残高があったが,被上告人らが上告会社の株式を取得して

上告会社を支配するようになった後の平成12年3月には,

上告会社の外国銀行の預金口座から被上告人B2に

5億円が送金されていること,③ Fは,将来的には,

上告会社の清算を考えており,平成12年12月には,

上告会社の商号が,従前の株式会社Qから,

会社の清算を考えたと思われる株式会社A1整理事業社へと

変更されていることなど,Fが本件各売買契約により現に利益を

得,又は得ようとしていると推認するに足りる事実をうかがうことができる。

 

(5) これらの事情,殊に,本件各売買契約当時,

上告会社の純資産は約10億円であったにもかかわらず,

上告会社の全株式を被上告人らが合計2億円で取得することになったが,

これはFの提案に基づくものであったこと,上告人A2及び上告人A3は,

当時,Fを全面的に信頼しており,同人から上告人A2及び

上告人A3の財産の保全,増加に必要であるとして示された方策に従っていたこと,

Fは,被上告人らの全株式を有する者であって,

本件各売買契約の結果,労せずして多額の利益を得たといえることなどに照らすと,

本件各売買契約につき,上告人A2及び上告人A3において,

Fからの働き掛けにより,本件各売買契約の相手方である

被上告人らに対する上告人A2及び上告人A3ら

一族の支配関係又は上告会社の株式の実質的な価値に関し

錯誤に陥ったことを直ちに否定することはできない。

 

(6)以上の諸点にかんがみると,原判決が指摘するように,

上告人A2において,本件各売買契約締結に至る意思決定の過程を

具体的に明らかにしていないという事情があることを考慮しても,

なお,本件各売買契約に係る上記のFによる欺もうの事実,

又は上告人A2及び上告人A3の錯誤の事実について

十分に審理をすることなく,これを否定した原審の判断には,

審理不尽の結果法令の適用を誤った違法があるといわざるを得ない。

 

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