株式売買価格決定申請棄却決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件

(平成15年2月27日最高裁)

事件番号  平成14(許)10

 

最高裁判所の見解

(1) 商法204条1項ただし書は,

会社は定款をもって株式の譲渡につき

取締役会の承認を要する旨を定めることができると規定しているが,

その趣旨は,会社にとって好ましくない者が

株主となることを防止することにあると解することができる。

 

他方,株式会社においては,本来,

株式の譲渡は自由であるべきものであって(同項本文),

株主は自己の希望しない相手方への譲渡又は

その意向に反する価格での売却を強制されることはないのが原則である。

 

したがって,定款に株式の譲渡制限の定めがある場合においても,

上記趣旨に反しない限り,株式の譲渡については

株主の意思をできる限り尊重すべきものと考えられる。

 

そして,会社に対して譲渡の相手方を

指定すべきことを請求した株主がその後に請求を撤回したとしても,

会社にとって好ましくない者が新たに株主となるわけではないから,

定款に譲渡制限の定めを置いた会社の利益が害されることはない。

 

そうすると,株主による請求の撤回を認めることは,

株式の譲渡制限制度の趣旨に反するものではないということができる。

 

(2) 定款に譲渡制限の定めがされた株式については,

その譲渡手続につき詳細な規定が置かれており

(商法204条ノ2から204条ノ5まで),

取締役会が譲渡の相手方として指定した者が株主に対して

株式を売り渡すべき旨を請求することによって,

株主とその者との間に株式の売買が

成立するということができる(同法204条ノ3)。

 

したがって,この売渡請求がされた後は,

株主がその請求を撤回することが許されないことは明らかであるが,

売渡請求前については,上記規定中に,

株主による請求の撤回が否定されるべき旨を定めた条項はない。

 

(3) 通常の場合における売買契約の申込みは,

申込みをする者が任意に選択した相手方に対して,

希望する売買価格等の契約内容を提示して行うものであるから,

申込みをした者においてこれを撤回することを制限する

民法521条1項,524条の規定は

合理性を有するということができる。

 

これに対し,商法の上記規定によれば,

定款に譲渡制限の定めのある会社の株式を

譲渡しようとする株主は,株主が選択した者への

譲渡を取締役会が承認しない場合には,

譲渡をしないこととするか,又は取締役会から

指定された者に対して譲渡するか,

そのいずれかを選ぶことしかできず,

売買価格の提示も行わないものであるから,

通常の売買契約の申込みをした者とは状況を異にする。

 

また,取締役会から指定された者は,

株主が自ら選択して申込みをした相手方ではなく,

売買契約の申込みを信頼した相手方とはその地位を異にするから,

その者の利益が害される可能性のあることを理由として,

株主による請求の撤回を許さないと解することは,

株式の譲渡を制限した会社の側の事情を重視する余り,

株式の自由な譲渡を制限された株主の利益を損なう

結果につながるものといわざるを得ない。

 

したがって,株主の会社に対する

譲渡相手方指定の請求が実質的にみて

売買契約の申込みに当たるということも,

取締役会から指定された者が売買契約の申込みを受けた者と

実質的に同じであるとみることもできないから,

株主による請求の撤回の可否につき,

民法521条1項,524条の規定を類推適用することは相当でない。

 

(4) 以上によれば,定款に株式の譲渡につき

取締役会の承認を要する旨の定めのある会社の株式について,

会社に対して株式の譲渡を承認すべきこと及び

これを承認しないときは他に

譲渡の相手方を指定すべきことを請求した株主は,

取締役会から指定された者が株主に対して

当該株式を売り渡すべき旨を請求するまで,

その請求を撤回することができると解するのが相当である。

 

したがって,抗告人が本件譲渡承認請求を

撤回することができないとした原審の判断には,

裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,

原決定は破棄を免れない。

 

そして,本件譲渡承認請求の撤回を認めた原々決定は正当であるから,

これに対する相手方の抗告を棄却することとする。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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