被相続人から抵当権の設定を受けた相続債権者が相続財産法人に対して抵当権設定登記手続を請求することの可否

(平成11年1月21日最高裁)

事件番号  平成10(受)5

 

最高裁判所の見解

1 相続人が存在しない場合

(法定相続人の全員が相続の放棄をした場合を含む。)には、

利害関係人等の請求によって選任される相続財産の管理人が

相続財産の清算を行う。管理人は、

債権申出期間の公告をした上で(民法九五七条一項)、

相続財産をもって、各相続債権者に、

その債権額の割合に応じて弁済をしなければならない

(同条二項において準用する九二九条本文)。

 

ただし、優先権を有する債権者の権利を

害することができない(同条ただし書)。

 

この「優先権を有する債権者の権利」に当たるというためには、

対抗要件を必要とする権利については、

被相続人の死亡の時までに対抗要件を

具備していることを要すると解するのが相当である。

 

相続債権者間の優劣は、相続開始の時点である被相続人の死亡の時を

基準として決するのが当然だからである。

 

この理は、所論の引用する判例(大審院昭和一三年(オ)第二三八五号

同一四年一二月二一日判決・民集一八巻一六二一頁)が、

限定承認がされた場合について、

現在の民法九二九条に相当する旧民法一〇三一条の解釈として判示するところであって、

相続人が存在しない場合について

これと別異に解すべき根拠を見いだすことができない。

 

したがって、相続人が存在しない場合には(限定承認がされた場合も同じ。)、

相続債権者は、被相続人からその生前に抵当権の設定を受けていたとしても、

被相続人の死亡の時点において設定登記がされていなければ、

他の相続債権者及び受遺者に対して抵当権に基づく

優先権を対抗することができないし、

被相続人の死亡後に設定登記がされたとしても、

これによって優先権を取得することはない(被相続人の死亡前にされた

抵当権設定の仮登記に基づいて被相続人の死亡後に本登記がされた場合を除く。)。

 

2 相続財産の管理人は、

すべての相続債権者及び受遺者のために法律に従って

弁済を行うのであるから、弁済に際して、

他の相続債権者及び受遺者に対して対抗することができない

抵当権の優先権を承認することは許されない。

 

そして、優先権の承認されない抵当権の設定登記がされると、

そのことがその相続財産の換価(民法九五七条二項において

準用する九三二条本文)をするのに障害となり、

管理人による相続財産の清算に著しい支障を来すことが明らかである。

 

したがって、管理人は、被相続人から抵当権の設定を

受けた者からの設定登記手続請求を拒絶することができるし、また、

これを拒絶する義務を他の相続債権者及び

受遺者に対して負うものというべきである。

 

以上の理由により、相続債権者は、被相続人から抵当権の設定を受けていても、

被相続人の死亡前に仮登記がされていた場合を除き、

相続財産人に対して抵当権設定登記手続を請求することが

できないと解するのが相当である。

 

限定承認がされた場合における限定承認者に対する設定登記手続請求も、

これと同様である(前掲大審院判例を参照)。

 

なお、原判決の引用する判例(最高裁昭和二七年(オ)第五一九号

同二九年九月一〇日第二小法廷判決・裁判集民事一五号五一三頁)は、

本件の問題とは事案を異にし、

右に説示したところと抵触するものではない。

 

3 したがって、被上告人には、本件根抵当権につき、上告人に対し、

本件仮登記に基づく本登記手続を

請求する権利がないものというべきである。

 

以上のとおりであるから、被上告人の請求を認容すべきものとした

原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、

右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、

論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

 

そして、原審の確定した事実によれば、被上告人の請求を棄却した

第一審判決は正当として是認すべきものであって、

被上告人の控訴を棄却すべきである。

 

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