横浜事件に関する再審事件

(平成20年3月14日最高裁)

事件番号  平成19(れ)1

 

最高裁判所の見解

本件は,第二次世界大戦下,言論・出版関係者数十名が,

治安維持法違反の被疑事実で検挙され,うち多くの者が,

同法違反の罪により起訴されて,昭和20年9月までの間に

有罪判決を受けたという,いわゆる「横浜事件」

に関する再審事件であるところ,

記録によれば,本件の経過は,次のとおりである。

 

(1) A,B,C,D及びE(以下「被告人5名」という。)は,

いずれも治安維持法違反の罪により横浜地方裁判所に起訴されたが,

同裁判所は,昭和20年8月29日から同年9月15日までの間に,

被告人らの自白を証拠として,

同法1条後段及び10条違反の事実を認定し,

被告人5名に対して,いずれも懲役2年,

執行猶予3年の各有罪判決を言い渡し,

各判決は上訴されることなく確定した

(以下,被告人5名に対するこれらの判決を総称して

「原確定判決」という。)。

 

(2) その後,被告人5名はいずれも死亡したが,

「治安維持法廃止等ノ件」と題する昭和20年勅令第575号が

公布・施行されたことにより,同日廃止され,

また,同月17日,同年勅令第579号による

治安維持法違反の罪についての

大赦令が公布・施行されたことにより被告人5名は大赦を受けた,

(ウ) 公判裁判所が公訴について実体的審理をして

有罪無罪の裁判をすることができるのは,

当該事件に対する具体的公訴権が発生し,かつ,

これが存続することを条件とするのであり,

免訴事由の存在により公訴権が消滅した場合には,

裁判所は実体上の審理を進めることも,

有罪無罪の裁判をすることも許されない,

 

(エ) そうすると,本件被告事件について,

被告人5名には,旧刑訴法363条2号(刑の廃止)及び3号(大赦)に

該当する免訴事由があるから,

免訴判決をもってのぞむのが相当であるとして,

被告人5名をいずれも免訴する判決(以下「本件第1審判決」という。)

を言い渡した。

 

(6) これに対し,弁護人が各控訴を申し立てて,

被告人5名を免訴した本件第1審判決は違法,

不当であると主張し,無罪判決を求めたところ,

原審の東京高等裁判所は,平成19年1月19日,

免訴判決は,被告人に対する公訴権が後の事情で

消滅したとして被告人を刑事裁判手続から解放するものであり,

これによって被告人はもはや処罰されることがなくなるのであって,

このことは再審の場合においても通常の場合と

異なるところはないから,免訴判決に対し,

被告人の側から,免訴判決自体の誤りを主張し,

あるいは無罪判決を求めて上訴の申立てをするのは

その利益を欠き,不適法であるとして,

旧刑訴法400条により各控訴を棄却する判決

(以下「本件原判決」という。)を言い渡した。

 

(7) そこで,弁護人が,同日,本件各上告に及んだ。

2 弁護人は,無この救済という再審制度の趣旨に照らし,

再審の審判においては,実体的審理,判断が優先されるべきであるから,

その判断をせず,旧刑訴法363条2号及び3号を適用して

被告人5名を免訴した本件第1審判決は誤りであり,

被告人の側には本件第1審判決の誤りを是正して無罪を求める

上訴の利益が認められるべきであるのに,

本件第1審判決の判断を是認した上,

上訴の利益を認めなかった本件原判決は,

同法511条等の解釈適用を誤っていると主張する。

 

しかしながら,再審制度がいわゆる非常救済制度であり,

再審開始決定が確定した後の事件の

審判手続(以下「再審の審判手続」という。)が,

通常の刑事事件における審判手続(以下「通常の審判手続」という。)と,

種々の面で差異があるとしても,同制度は,

所定の事由が認められる場合に,

当該審級の審判を改めて行うものであって,

その審判は再審が開始された理由に

拘束されるものではないことなどに照らすと,

その審判手続は,原則として,

通常の審判手続によるべきものと解されるところ,

本件に適用される旧刑訴法等の諸規定が,

再審の審判手続において,免訴事由が存する場合に,

免訴に関する規定の適用を排除して実体判決をすることを

予定しているとは解されない。

 

これを,本件に即していえば,原確定判決後に

刑の廃止又は大赦が行われた場合に,

旧刑訴法363条2号及び3号の適用がないということはできない。

 

したがって,被告人5名を免訴した本件第1審判決は正当である。

そして,通常の審判手続において,

免訴判決に対し被告人が無罪を主張して上訴できないことは,

当裁判所の確定した判例であるところ(前記昭和23年5月26日大法廷判決,

最高裁昭和28年(あ)第4933号同29年11月10日

大法廷判決・刑集8巻11号1816頁,

最高裁昭和29年(あ)第3924号同30年12月14日大法廷判決・

刑集9巻13号2775頁参照),再審の審判手続につき,

これと別異に解すべき理由はないから,再審の審判手続においても,

免訴判決に対し被告人が無罪を主張して

上訴することはできないと解するのが相当である。

以上と同旨の本件原判決の判断は相当である。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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