死刑判決の言渡しを受けた被告人の控訴取下げが無効とされた事例

(平成7年6月28日最高裁)

事件番号  平成6(し)173

 

最高裁判所の見解

1 死刑判決に対する上訴取下げは、

上訴による不服申立ての道を自ら閉ざして

死刑判決を確定させるという重大な法律効果を伴うものであるから、

死刑判決の言渡しを受けた被告人が、その判決に不服があるのに、

死刑判決宣告の衝撃及び公判審理の重圧に伴う

精神的苦痛によって拘禁反応等の精神障害を生じ、

その影響下において、その苦痛から逃れることを目的として

上訴を取り下げた場合には、その上訴取下げは無効と解するのが相当である。

 

けだし、被告人の上訴取下げが有効であるためには、

被告人において上訴取下げの意義を理解し、

自己の権利を守る能力を有することが必要であると解すべきところ

(最高裁昭和二九年(し)第四一号同年七月三〇日第二小法廷決定・

刑集八巻七号一二三一頁参照)、右のような状況の下で

上訴を取り下げた場合、被告人は、

自己の権利を守る能力を著しく制限されていたものというべきだからである。

 

2 これを本件についてみるに、前記の経過に照らせば、

申立人は一審の死刑判決に不服があり、

無罪となることを希望していたにもかかわらず、

右判決の衝撃及び公判審理の重圧に伴う精神的苦痛により、

拘禁反応としての「世界で一番強い人」から

魔法をかけられ苦しめられているという妄想様観念を生じ、

その影響下において、いわば八方ふさがりの状態で、

助かる見込みがないと思い詰め、その精神的苦痛から

逃れることを目的として、

本件控訴取下げに至ったものと認められるのであって、

申立人は、本件控訴取下げ時において、

自己の権利を守る能力を著しく制限されていたものというべきであるから、

本件控訴取下げは無効と認めるのが相当である。

 

3 したがって、本件控訴取下げを有効とした

原原決定及びこれを維持した原決定には、

刑訴法の解釈を誤った違法があり、

これを取り消さなければ著しく正義に反するといわなければならない。

 

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