民事上の不法行為たる名誉毀損

(平成14年1月29日最高裁)

事件番号  平成7(オ)1421

 

最高裁判所の見解

民事上の不法行為たる名誉毀損については,

その行為が公共の利害に関する事実に係り,

その目的が専ら公益を図るものである場合には,

摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があれば,

同行為には違法性がなく,また,真実であることの証明がなくても,

行為者がそれを真実と信ずるについて相当の理由があるときは,

同行為には故意又は過失がなく,不法行為は成立しないとするのが

当裁判所の判例とするところである

(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日

第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁参照)。

 

ところが,本件各記事は,被上告補助参加人が配信した記事を,

被上告人らにおいて裏付け取材をすることなく,

そのまま紙面に掲載したものである。

 

そうすると,このような事情のみで,他に特段の事情もないのに,

直ちに被上告人らに上記相当の理由があると

いい得るかについて検討すべきところ,

今日までの我が国の現状に照らすと,少なくとも,

本件配信記事のように,社会の関心と興味をひく私人の

犯罪行為やスキャンダルないしこれに関連する事実を

内容とする分野における報道については,

通信社からの配信記事を含めて,報道が加熱する余り,

取材に慎重さを欠いた真実でない内容の報道がまま見られるのであって,

取材のための人的物的体制が整備され,

一般的にはその報道内容に一定の信頼性を有しているとされる

通信社からの配信記事であっても,我が国においては

当該配信記事に摘示された事実の真実性について

高い信頼性が確立しているということはできないのである。

 

したがって,現時点においては,新聞社が通信社から

配信を受けて自己の発行する新聞紙に掲載した記事が

上記のような報道分野のものであり,

これが他人の名誉を毀損する内容を有するものである場合には,

当該掲載記事が上記のような通信社から配信された記事に

基づくものであるとの一事をもってしては,

記事を掲載した新聞社が当該配信記事に摘示された事実に

確実な資料,根拠があるものと受け止め,

同事実を真実と信じたことに

無理からぬものがあるとまではいえないのであって,

当該新聞社に同事実を真実と信ずるについて

相当の理由があるとは認められないというべきである。

 

仮に,その他の報道分野の記事については,

いわゆる配信サービスの抗弁,すなわち,

報道機関が定評ある通信社から配信された記事を

実質的な変更を加えずに掲載した場合に,

その掲載記事が他人の名誉を毀損するものであったとしても,

配信記事の文面上一見してその内容が真実でないと分かる場合や

掲載紙自身が誤報であることを知っている等の事情がある場合を除き,

当該他人に対する損害賠償義務を負わないとする法理を

採用し得る余地があるとしても,私人の犯罪行為等に関する

報道分野における記事については,

そのような法理を認め得るための,

配信記事の信頼性に関する定評という一つの

重要な前提が欠けているといわなければならない。

 

なお,通信社から配信を受けた記事が

私人の犯罪行為等に関する報道分野におけるものである場合にも,

その事情のいかんによっては,その配信記事に基づく記事を

掲載した新聞社が名誉毀損による

損害賠償義務を免れ得る余地があるとしても,

被上告補助参加人において本件配信記事に

摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由がなく,かつ,

被上告人らの不法行為の否定につながる他の特段の事情も

存しない本件においては,被上告人らが

本件配信記事に基づいて本件各記事を

掲載し上告人の名誉を毀損したことについて,

損害賠償義務を免れることはできない。

 

そうすると,被上告人らに

損害賠償義務がないとした原審の判断には,

不法行為に関する法令の解釈適用を誤った違法があり,

この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

 

論旨は理由があり,原判決中被上告人らに

関する部分は破棄を免れない。

そして,被上告人らの上告人に対する各損害賠償の額について

更に審理判断させるため,上記部分につき

本件を原審に差し戻すべきである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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