民法715条1項にいう「被用者カ其事業ノ執行ニ付キ第三者ニ加ヘタル損害」

(平成15年3月25日最高裁)

事件番号  平成14(受)297

 

最高裁判所の見解

前記事実関係によれば,Dは,被上告人夫婦に対し

資金の融通を申し込むに際して,当日中に顧客に保険金を

届けなければ勤務先に発覚して免職になるなどと述べた上,

Dが契約している保険を解約して被上告人らに

融資金を返済する旨述べている。

 

このことからすると,被上告人ら夫婦は,

Dから懇願されて上告人には知られないまま事態を

収拾するための資金の融通に応じたのであり,

融資金の返済資金はD個人が工面するというのであるから,

Dが被上告人らから融資を受けた行為はDと

被上告人らとの個人的な貸借関係であり,

被上告人B1がDの言を信じ盗まれた保険金に充てる趣旨で

融資金を交付したからといって,これが上告人の業務に属する

公的資金の調達に当たると評価することはできない。

 

また,前記事実関係によれば,本件契約者貸付けは,

借主ないしその代理人である被上告人B1が

直接郵便局の窓口に出向き,自らが署名押印した

貸付請求書を窓口担当者に提出して行われたのであるから,

この貸付けの手続をもってDが行う局外貸付けと同視すべきものではない。

 

もっとも,Dが被上告人夫婦に対し契約者貸付けの方法を教示したり,

被上告人らの貸付可能額を確認し,

貸付請求書用紙に所要事項を記入して被上告人B1に交付したりした行為は,

保険外務員の職務行為又はこれと密接な

関連を有する行為であるとみることができる。

 

しかしながら,被上告人夫婦に損害を生じさせた行為は,

Dの上記教示行為等や窓口担当者らの行為ではなく,

Dにおいて返済する意思も能力もないのにこれがあるように装って

被上告人B1をその旨誤信させて融資を受けたことであり,

この行為が職務と密接に関連する行為と

評価されないことは既に説示したとおりである。

 

以上によれば,Dの行為を外形的,全体的にみても,

被上告人夫婦は,Dが確実に融資金を返済してくれるという

D個人に対する信頼に基づきDに資金を融通したものと評価すべきであって,

Dが被上告人らに加えた損害は,民法715条1項にいう

「被用者カ其事業ノ執行ニ付キ第三者ニ加ヘタル損害」に当たらない。

 

したがって,Dの行為について上告人が

民法715条に基づく責任を負う理由は認められず,

論旨は理由がある。また,Dの行為は国家賠償法1条1項にいう

「公権力の行使」には当たらないから,これについて

同条に基づく責任を問うこともできない。

そうすると,上告人が被上告人らに対し

損害賠償責任を負担するものとはいえず,

これと異なる原審の判断には,

判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,

原判決は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,

被上告人B1及び同B2の請求は理由がないから,

その控訴を棄却すべきである。被上告人B3の請求については,

被上告人B1の代理権の存否等について更に審理を

尽くさせる必要があるから,本件を原審に差し戻すこととする。

 

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