民法724条後段の法意
(平成2年3月6日最高裁)
事件番号 昭和61(オ)648
最高裁判所の見解
一 原審は、(1) 昭和一六年五月二〇日、
旧陸軍において陸軍少尉で補充兵教育係教官をしていた被上告人は、
陸軍上等兵で同係教官助手をしていた上告人の担当する
初年兵が被上告人に対して無礼な言動をしたのは
上告人の責任であるとして、上告人の顔面を平手及び手拳で
二〇回以上殴打し、その場に倒れた上告人の頭部、
肩、横腹等を軍靴で何回も蹴りつけるなどの暴行を加えた、
(2) そのため、上告人は、口、鼻等から出血し、
意識がもうろうとなって一か月近く陸軍病院に入院し、
退院後も幾分難聴を覚える後遺症が残った、
との事実を確定した上、民法七二四条後段所定の
二〇年の期間は消滅時効の期間であるとの解釈の下に、
被上告人は昭和五六年四月三日被上告人方において
右不法行為による損害賠償債務を承認して時効の利益を
放棄したとの上告人の主張は採用することができないから、
右損害賠償請求権は時効により消滅したとして、
上告人の本件請求を棄却した。
二 案ずるに、民法七二四条後段の規定は、
不法行為によって発生した損害賠償請求権の
除斥期間を定めたものと解するのが相当であるから
(最高裁昭和五九年(オ)第一四七七号平成元年一二月二一日第一小法廷判決・
民集四三巻一二号登載予定)、
右規定をもって消滅時効の期間を定めたものと解した点において、
原判決には同規定の解釈適用を
誤った違法があるといわなければならない。
しかしながら、上告人が本訴を提起したのは
右不法行為の日である昭和一六年五月二〇日から
約四一年を経過した昭和五七年四月二八日であることが
記録上明らかであり、上告人の本件損害賠償請求権は、
本訴提起前の二〇年の除斥期間が経過した時点で
法律上当然に消滅したことになるのであって、
このような場合、裁判所は、除斥期間の性質に鑑み、
本件請求権は除斥期間の経過により消滅したとの主張がなくても、
右期間の経過により本件請求権は消滅したものと
判断すべきものであるから(右判例参照)、
上告人の本件請求権は既に消滅したとして
上告人の本件請求を棄却した原審の判断は、結論において相当である。
したがって、原判決の前記法令の解釈適用の誤りは
判決の結論に影響を及ぼさないことが明らかであるから、
結局、論旨は採用することができない。
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