民訴法(平成13年法律第96号による改正前のもの)220条4号

(平成13年12月7日最高裁)

事件番号  平成13(許)15

 

最高裁判所の見解

(1) 本件の本案訴訟のうち,2つの事件(大阪地方裁判所平成10年(ワ)

第11490号貸金等請求事件及び平成11年(ワ)

第9243号貸金等請求事件)は,経営が破たんした

D信用組合(以下「D信」という。)の営業の全部を譲り受けた抗告人が,

貸金債権,求償債権等に基づき,相手方株式会社E不動産及び

相手方Fに対し金員の支払等を求めたものである。

 

また,その余の事件(同平成10年(ワ)第11520号

債権者代位請求事件,同年(ワ)第11634号債権者代位請求事件,

同年(ワ)第11654号損害賠償等請求事件)は,抗告人が,

相手方E不動産又は相手方Fの所有する不動産について,

相手方株式会社G,相手方H又は相手方Iに対し,

前記各債権を被保全債権とする債権者代位権に基づき

所有権移転登記手続等を求めたものである。

 

(2) 相手方らは,前記本案訴訟において,

相手方F及び相手方E不動産がD信に対する

貸金債務,求償債務等を本件土地の売却代金によって

弁済しようとしたところ,D信は,本件土地についてされた

根抵当権設定登記等を抹消することを不当に拒絶して

本件土地の売却を妨害し,また,相手方F及び相手方E不動産に対し,

貸付残高を雪だるま式に増大させた上,自己の利益を図る目的で,

上記相手方両名の支払利息相当分の金額を新たに融資し,

これを支払利息に充当する,いわゆる「利貸し」を行ったと主張し,

これらの不法行為に基づく損害賠償請求権と抗告人の

前記各債権とを対当額で相殺する旨の抗弁を主張した。

 

(3) 本件は,相手方らが,前記(2)の抗弁に係る事実等を

証明するためであるとして,

抗告人が所持する原々決定別紙文書目録一ないし

四記載の各稟議書及び付属書類一切

(以下,これらを一括して「本件文書」という。)につき

文書提出命令を申し立てた事件である。

 

相手方らは,本件文書は,貸出稟議書ではあるが,

民事訴訟法(平成13年法律第96号による

改正前のもの。以下同じ。)220条4号ハ所定の

「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」

に当たらない特段の事情があり,同号の文書に当たるなどと主張した。

 

2 原審は,本件文書は,その開示によって所持者である抗告人に

看過し難い不利益が生ずるおそれがあるとは認められないから,

「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」

に当たらないと判断して,抗告人に対して

本件文書の提出を命ずべきものとした。

 

3 本件文書は,D信が相手方らへの融資を決定する過程で作成した

稟議書とその付属書類であるところ,

信用組合の貸出稟議書は,専ら信用組合内部の利用に

供する目的で作成され,外部に開示することが予定されていない文書であって,

開示されると信用組合内部における自由な意見の表明に

支障を来し信用組合の自由な意思形成が阻害されたりするなど

看過し難い不利益を生ずるおそれがあるものとして,

特段の事情がない限り,民事訴訟法220条4号ハ所定の

「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に

当たると解すべきである

(最高裁平成11年(許)第2号同年11月12日

第二小法廷決定・民集53巻8号1787頁参照)。

 

そこで,本件文書について,

上記の特段の事情があるかどうかについて検討すると,

記録により認められる事実関係等は,次のとおりである。

 

(1) 本件文書の所持者である抗告人は,

預金保険法1条に定める目的を達成するために同法によって

設立された預金保険機構から委託を受け,同機構に代わって,

破たんした金融機関等からその資産を買い取り,

その管理及び処分を行うことを主な業務とする株式会社である。

 

(2) 抗告人は,D信の経営が破たんしたため,

その営業の全部を譲り受けたことに伴い,

D信の貸付債権等に係る本件文書を所持するに至った。

 

(3) 本件文書の作成者であるD信は,

営業の全部を抗告人に譲り渡し,

清算中であって,将来においても,

貸付業務等を自ら行うことはない。

 

(4) 抗告人は,前記のとおり,

法律の規定に基づいてD信の貸し付けた債権等の

回収に当たっているものであって,

本件文書の提出を命じられることにより,抗告人において,

自由な意見の表明に支障を来し

その自由な意思形成が阻害されるおそれがあるものとは考えられない。

 

上記の事実関係等の下では,本件文書につき,

上記の特段の事情があることを肯定すべきである。

 

このような結論を採ることによって,

現に営業活動をしている金融機関において,

作成時には専ら内部の利用に供する目的で作成された貸出稟議書が,

いったん経営が破たんして抗告人による

回収が行われることになったときには,

開示される可能性があることを危ぐして,

その文書による自由な意見の表明を控えたり,

自由な意思形成が阻害されたりするおそれがないか,

という点が問題となり得る。

 

しかし,このような危ぐに基づく影響は,

上記の結論を左右するに足りる程のものとは考えられない。

 

所論引用の判例(最高裁平成11年(許)第35号同12年12月14日

第一小法廷決定・民集54巻9号2709頁)は,

本件とは事案を異にするものであり,

その他原決定の違法をいう論旨は採用することができない。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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