民訴法220条3号に基づく提出義務

(平成16年2月20日最高裁)

事件番号  平成15(許)48

 

最高裁判所の見解

(1) 前記の事実関係等によれば,次のような事情が存在する。

(ア) 抗告人とE漁協との間の漁業補償交渉は,

E漁協に所属する組合員の全員が被る漁業損失の総額を対象として

行われたものであり,その際,抗告人側が漁業種別ごとの

個別の補償内容を明らかにすることなく,交渉が進められ,

その結果,上記の総額について協議が調い,

本件漁業補償協定が締結されたものである。

 

(イ) 上記交渉においては,E漁協が,

その所属する個々の組合員の代理人として組合員ごとの

補償額についての交渉を個別的に行ったのではないので,

個々の組合員の補償額については,

本件漁業補償協定の締結により

具体的な金額が確定したものとは理解されていない。

 

(ウ) 本件文書がその一部である前記補償額算定調書は,

抗告人が,上記漁業交渉に臨むに当たって,

上記の総額を算定するために,種々のデータ等を基に作成した手持ち資料である。

 

(エ) 記録によれば,本件文書には,平年漁獲金額,純収益率,純収益,

年利率,漁場依存率,被害率,制限期間率及び前価率等を抗告人が

一定の判断を加えて認定した上で,これらの数値に基づいて

算定した補償見積額が記載されている。

 

また,本件文書は,その内容が交渉相手であるE漁協に対しても,

明らかにされたことはなかった。

 

(オ) 抗告人は,上記交渉を円滑に進めるためには,

前記漁業補償の実務に従い,

E漁協との間で上記の総額について交渉をし,

総額についての漁業補償協定を締結した上で,

個々の組合員に対する補償額の決定,配分は,

各組合員の漁業実績等を熟知している

E漁協の自主的な判断にゆだねる方

 

(カ) 相手方は,上記交渉におけるE漁協側の交渉委員であり,

上記の補償交渉の経緯,本件漁業補償協定の趣旨,

内容等については十分認識していた。

 

(キ) 抗告人は,今後も,各種事業について,

本件と同様の漁業補償交渉を行うことを予定している。

 

(2) 上記の諸点に照らして考えれば,

本件文書は,抗告人が,E漁協との漁業補償交渉に臨む際の

手持ち資料として作成した前記補償額算定調書の一部であり,

交渉の対象となる上記の総額を積算する過程における種々のデータを基に

算出された本件許可漁業に係る数値(補償見積額)が記載されたものである。

 

したがって,本件文書は,民訴法220条4号ロ所定の

「公務員の職務上の秘密に関する文書」に当たるものというべきである。

 

また,本件文書が提出され,その内容が明らかになった場合には,

抗告人が,各組合員に対する補償額の決定,配分については

E漁協の自主的な判断にゆだねることを前提とし,

そのために,上記の交渉の際にも明らかにされなかった

上記の総額を算出する過程の数値(個別の補償見積額)の

一部が開示されることにより,

本件漁業補償協定に係る上記の前提が崩れ,

E漁協による各組合員に対する補償額の決定,

配分に著しい支障を生ずるおそれがあり,

E漁協との間の信頼関係が失われることとなり,

今後,抗告人が他の漁業協同組合との間で,

本件と同様の漁業補償交渉を円滑に進める際の

著しい支障ともなり得ることが明らかである。

 

そうすると,本件文書は,同号ロ所定の,

その提出により「公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」にも

当たるものというべきであるから,結局,本件文書につき,

抗告人に対し,同号に基づく提出義務を認めることはできない。

 

また,本件文書が,上記のとおり,

公務員の職務上の秘密に関する文書であって,

その提出により公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるものに

当たると解される以上,民訴法191条,197条1項1号の各規定の趣旨に照らし,

抗告人は,本件文書の提出を拒むことができるものというべきであるから,

民訴法220条3号に基づく本件申立ても,

その理由がないことは明らかである。

 

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