民訴法220条3号所定の法律関係文書

( 平成19年12月12日最高裁)

事件番号  平成19(許)22

 

この裁判では、

被疑者の勾留請求の資料とされた告訴状及び被害者の供述調書が

民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当すると

された事例です。

 

最高裁判所の見解

(1) 本件勾留状は,これによって相手方X の身体の自由を制約して,

同相手方 2にこれを受忍させるという抗告人と

同相手方との間の法律関係を生じさせる文書であり,また,

本件勾留請求に係る勾留請求書は,

本件勾留状の発付を求めるために,

刑訴規則147条により,作成を要することとされている文書であるから,

いずれも抗告人と同相手方との間の

法律関係文書に該当するものというべきである

(最高裁平成17年(許)第4号同年7月22日第二小法廷決定・

民集59巻6号1837頁参照)。

 

そして,本件各文書は,本件勾留請求に当たって,

刑訴規則148条1項3号所定の資料として,

検察官が裁判官に提供したものであるから,

本件各文書もまた抗告人と相手方X

との間の法律関係文書に該当するものというべ きである。

 

しかし,相手方会社に対する関係においては,

本件勾留状は,相手方会社の権利等を制約したり,

相手方会社にこれを受忍させるというものではないから,

抗告人と相手方会社との間の法律関係を生じさせる文書であるとはいえず,

本件勾留請求に当たって裁判官に提供された

本件各文書も抗告人と相手方会社との間の法律関係文書に該当するとはいえない。

 

したがって,相手方会社との関係においては,

本件各文書の文書提出命令の申立ては,

その余の点につき判断するまでもなく理由がない。
(2)ア 刑訴法47条は,その本文において,

「訴訟に関する書類は,公判の開廷前には,

これを公にしてはならない。」と定め,そのただし書において,

「公益上の必要その他の事由があって,

相当と認められる場合は,この限りでない。」と定めているところ,

本件被疑事件には公訴を提起しない処分がされており,

その公判は開廷されていないのであるから,

本件各文書は,同条により原則的に公開が禁止される

「訴訟に関する書類」に当たることが明らかである。

ところで,同条ただし書の規定によって

「訴訟に関する書類」を公にすることを

相当と認めることができるか否かの判断は,

当該「訴訟に関する書類」が原則として

公開禁止とされていることを前提として,

これを公にする目的,必要性の有無,程度,

公にすることによる被告人,被疑者及び関係者の

名誉,プライバシーの侵害,捜査や公判に及ぼす不当な

影響等の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情を

総合的に考慮してされるべきものであり,

当該「訴訟に関する書類」を保管する者の合理的な裁量に

ゆだねられているものと解すべきである。

 

そして,民事訴訟の当事者が,

民訴法220条3号後段の規定に基づき,

上記「訴訟に関する書類」に該当する

文書の提出を求める場合においても,

当該文書の保管者の上記裁量的判断は尊重されるべきであるが,

当該文書が法律関係文書に該当する場合であって,

その保管者が提出を拒否したことが,

民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の

有無,程度,当該文書が開示されることによる

上記の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし,

その裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用するものであると認められるときは,

裁判所は,当該文書の提出を命ずることができるものと解するのが相当である

(最高裁平成15年(許)第40号同16年5月25日

第三小法廷決定・民集58巻5号1135頁,

前掲平成17年7月22日第二小法廷決定参照)。

 

イ 上記の見地に立って,本件各文書についての相手方X の

文書提出命令の申立てをみると,次のようにいうことができる。

 

(ア) 本件本案訴訟において,相手方X は,

本件勾留請求の違法を主張しているところ,

同相手方の勾留の裁判は,準抗告審において取り消されており,

抗告人において,その取消しが本件勾留請求後の

事情に基づくものであるとの主張立証はしていないのであるから,

本件勾留請求時に,同相手方には罪を犯したことを疑うに足りる

相当な理由が存在しなかった可能性があるというべきである。

 

そうすると,本件勾留請求に当たって,

検察官が相手方X には罪を犯したことを疑うに足りる

相当な理由があると判断するに際し,

最も基本的な資料となった本件各文書については,

取調べの必要性があるというべきである。

 

(イ) 本件被疑事件のような性犯罪について捜査段階で

作成された被害者の告訴状や供述調書が民事訴訟において

開示される場合,被害者等の名誉,プライバシーの侵害という

弊害が発生するおそれがあることは,一般的には否定し難いところである。

 

しかし,本件においては,次のような

特別の事情が存在することを考慮すべきである。

 

すなわち,Aは,相手方X に対して別件第1訴訟を提起しており,

その審 2理に必要とされる範囲において

本件被疑事実にかかわる同人のプライバシーが訴訟関係人や

傍聴人等に明らかにされることを

やむを得ないものとして容認していたというべきである。

 

Aは,その後,別件第1訴訟の請求を放棄したが,これは,

相手方らから別件第2訴訟を提起されて,

別件第1訴訟の訴えを取り下げたところ,相手方X が

これに同意しなかったためにしたものであり,

別件第1訴訟において自らのプライバシーが

明らかになることを避けるためにしたものとは考え難い。

 

また,本件本案訴訟においては,

既に抗告人から本件陳述書が書証として提出されているところ,

本件陳述書は,本件勾留請求を担当した松本検事が

本件各文書を閲覧した上で作成したものであって,

そこには,Aの司法警察員に対する供述内容として,

本件被疑事実の態様が極めて詳細かつ具体的に記載されている。

 

このような本件の具体的な事実関係の下では,

本件本案訴訟において本件各文書が開示されることによって,

Aの名誉,プライバシーが侵害されることによる弊害が

発生するおそれがあると認めることはできない。

 

(ウ) 捜査段階で作成された被害者の告訴状や供述調書が

公判の開廷前に民事訴訟において開示される場合,

捜査や公判に不当な影響を及ぼす等の弊害が発生するおそれがあることも,

一般的には否定し難いところである。

 

しかし,本件被疑事件については,本件勾留請求が準抗告審で却下され,

検察官が公訴を提起しない処分をしており,また,

上記のとおり,本件本案訴訟において抗告人が

既に書証として提出した本件陳述書には,Aの供述内容として,

本件被疑事実の態様が極めて詳細かつ具体的に記載されているものであって,

その内容は,ほぼ本件調書の記載に従ったもののようにうかがわれる。

 

このような本件の具体的な事実関係の下では,

本件本案訴訟において本件各文書が開示されることによって,

本件被疑事件はもちろん,同種の事件の捜査や公判に及ぼす

不当な影響等の弊害が発生するおそれがあると認めることはできない。(

 

エ) 上記の諸般の事情に照らすと,

本件各文書の提出を拒否した抗告人の判断は,

裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものというべきである。

 

5 以上によれば,相手方会社との関係では,

本件各文書についての文書提出命令の申立ては理由がないから,

原決定中,相手方会社に関する部分のうち本件各文書の提出を命じた部分に係る

原審の判断には裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 

論旨はこの限度で理由があり,上記部分は破棄を免れない。

そして,前記説示によれば,原々決定中,

相手方会社に関する部分のうち

本件各文書の提出を命じた部分は不当であるから,

これを取り消して,本件各文書についての

相手方会社の文書提出命令の申立てを却下することとする。

 

相手方X との関係では,本件各文書についての

文書提出命令の申立ては理由があり,原決定中,

同相手方に関する部分のうち本件各文書の提出を命じた部分は

結論において正当であるから,この部分についての

抗告人の抗告を棄却する。

 

なお,相手方らのその余の文書提出命令の申立てに関する抗告については,

抗告理由が抗告許可の決定において排除されたので,棄却することとする。

 

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