民訴法220条3号,民訴法220条4号ホ,刑訴法47条,刑訴法110条,刑訴法218条1項,刑訴法218条3項

(平成17年7月22日最高裁)

事件番号  平成17(許)4

 

最高裁判所の見解

(1) 本件は,警視庁所属の警察官が相手方らの各住所地において

行った原決定別紙捜索差押目録(原々決定別紙捜索差押目録と同一内容)

記載(1)~(7)の各捜索差押え(以下,これらを併せて「本件各捜索差押え」という。)が

違法であることなどを理由に,相手方らが抗告人に対し

国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求める訴訟

(以下「本件本案訴訟」という。)において,

相手方らが,抗告人が所持する本件各捜索差押えに係る

各捜索差押令状請求書(原決定別紙文書目録記載1の各文書。

以下,これらを併せて「本件各請求書」という。)及び

各捜索差押許可状(同目録記載3の各文書。以下,

これらを併せて「本件各許可状」という。)について

文書提出命令の申立て(以下「本件申立て」という。)をした事件である。

 

相手方らは,文書提出義務の原因として,本件各請求書については,

民訴法220条3号所定の

「挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき」

(以下,便宜同号のこの部分を「民訴法220条3号後段」といい,

これに該当する文書を「法律関係文書」という。)に,

本件各許可状については,同条1号所定の

「当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき」及び

法律関係文書に,それぞれ該当する旨主張している。

 

(2) 本件各請求書及び本件各許可状は,

それぞれ原決定別紙捜索差押目録記載の各事件

(以下,これらを併せて「本件各被疑事件」という。)に関するものであり,

いずれも被疑者は不詳とされている。

 

本件各被疑事件については,いずれも,

いまだ被疑者の検挙には至っておらず,現在も捜査が継続中である。

 

(3) 抗告人は,本件本案訴訟において,本件各被疑事件のうち

原決定別紙捜索差押目録記載(2)の捜索差押えに係る被疑事件

(以下「千葉県議会議員宅放火事件」という。)については,

平成13年8月29日付け答弁書の中で,

捜索差押令状請求書に記載されている「犯罪事実の要旨」を

そのまま記載しているが,その余の各被疑事件については,

平成15年3月12日付け準備書面の中で,骨子のみを記載している。

 

2 本件申立てについて,原々審は,本件各請求書のうち

千葉県議会議員宅放火事件に関する捜索差押えに係る分及び

本件各許可状の提出を求める限度で認容し,

その余を却下したが,原審は,次のとおり判示して,

相手方らの抗告に基づき原々決定を変更し,

本件各請求書及び本件各許可状の提出を命じた。

 

(1) 本件申立てにおける「証明すべき事実」は,

警視庁所属の警察官による本件各許可状の請求及び

本件各捜索差押えの執行が違憲違法であるというものであるところ,

これが「証明すべき事実」の記載として不十分とはいえず,

本件申立ては適法である。

 

(2) 本件各許可状及び本件各請求書は,

いずれも法律関係文書に該当する。

 

そして,これらの文書は,

刑訴法47条本文の「訴訟に関する書類」に該当し,

かつ,本件各被疑事件はいまだ捜査中であるから,

「公判の開廷前」にあるものと認められる。

 

同条は,「訴訟に関する書類」は,

「公判の開廷前」は原則として非公開とし(同条本文),

例外的に公益上の必要その他の事由があって

相当と認められる場合には公開とする(同条ただし書)旨定めている。

 

民事裁判において,上記「訴訟に関する書類」を

公開するかどうかの判断については,

原則として当該文書の所持者の裁量にゆだねられており,

公開を不相当とした所持者の判断に裁量権の範囲の逸脱又は

濫用が認められる場合に限り,裁判所は

当該文書の提出を命ずることができると解するのが相当である。

 

(3) 本件各許可状は,刑訴法222条1項,110条に基づき,

本件各捜索差押えの執行時に相手方らに示されたものである上,

その記載事項は,被疑者の氏名(本件の場合は被疑者不詳),

罪名,差し押さえるべき物,捜索すべき場所等であって,

その公開により捜査の密行性や訴訟関係人のプライバシー等が

侵害されるおそれがある事項が存するとは認められない。

 

また,本件各捜索差押えを受けた相手方らが民事裁判において

その違法を主張している場合には,本件各捜索差押えが

刑訴法上の手続に基づき適法に行われたかどうかを直接確認するために,

本件各許可状を証拠として提出する必要性,相当性を肯認することができる。

 

したがって,本件各許可状の公開を不相当として

提出を拒絶する抗告人の判断には,

裁量権の範囲の逸脱ないし濫用がある。

 

(4) 本件各請求書については,これらに記載された各「犯罪事実の要旨」が

開示されることによって,訴訟関係人の名誉やプライバシー等が

新たに侵害されるおそれのあることはうかがわれない。

 

上記各「犯罪事実の要旨」に係る捜査は,現在も継続中であることが

認められるけれども,本件各捜索差押えの実施から約2~4年以上が経過したこと,

訴訟関係人の名誉やプライバシー等が新たに侵害されるおそれや

現時点において捜査の支障になるおそれのある事情について

抗告人が具体的な主張立証をしていないことにかんがみると,

上記各「犯罪事実の要旨」が開示されることによって,

捜査に支障が生ずるということはできない。

 

また,捜索差押令状請求書の記載事項である

「日出前又は日没後に差押,捜索をする必要があるときはその旨及び事由」及び

「7日を超える有効期間を必要とするときはその旨及び事由」

(刑訴規則155条1項6号及び5号。以下,これらを併せて

「夜間執行事由等」という。)については,

捜査機関の捜査手法の機微に触れるような事項には

及ばない記載が大部分であることは令状実務の経験上優に認められる事柄であり,

本件において捜査手法の機微に触れるような

特段の事由があることについて抗告人が何ら主張立証していないこと,

本件各捜索差押えを実施してから約2~4年以上経過したことをも考慮すると,

本件各請求書中の夜間執行事由等が開示されることによって,

捜査に支障が生ずることはないものと推認される。

 

したがって,本件各請求書の公開を不相当として

提出を拒絶する抗告人の判断には,裁量権の範囲の逸脱ないし濫用がある。

 

3 しかしながら,原審の判断のうち

上記2の(1)~(3)は是認することができるが,

同(4)は是認することができない。

その理由は,次のとおりである。

 

(1) 相手方らは,本件本案訴訟において,

本件各捜索差押えが違法であることを基礎付ける事実として,

① 相手方らが本件各被疑事件と無関係であること,

② 本件各捜索差押えに係る各捜索場所には本件各被疑事件に関する

証拠物や没収すべき物が存在する蓋然性がなかったこと,

③ 本件各捜索差押えによって押収された物は,

本件各被疑事件と関連性がなく,差し押さえる必要性もなかったこと,

④ 警視庁所属の警察官は,上記①~③の各事実を熟知しながら,

又は重大な過失によりこれを知らずに,さらには,

相手方ら及び相手方らが所属し,又は支持する

政治団体の選挙活動を妨害する意図の下に,

本件各捜索差押えを行ったことを主張しているものであって,

これらの主張事実を立証するために相手方らが本件申立てに

及んだものであることは明らかであることにかんがみれば,

本件申立てにおける「証明すべき事実」が

上記2(1)のようなものであったとしても,

「証明すべき事実」の記載に欠けるところはないというべきである。

 

この点に関する論旨は理由がない。

 

(2) 【要旨1】本件各許可状は,これによって相手方らが有する

「住居,書類及び所持品について,侵入,捜索及び

押収を受けることのない権利」(憲法35条1項)を制約して,

抗告人(警視庁)所属の警察官に相手方らの住居等を捜索し,

その所有物を差し押さえる権限を付与し,

相手方らにこれを受忍させるという抗告人と

相手方らとの間の法律関係を生じさせる文書であり,また,

本件各請求書は,本件各許可状の発付を求めるために

法律上作成を要することとされている文書である

(刑訴法218条3項,刑訴規則155条1項)から,

いずれも法律関係文書に該当するものというべきである。

 

(3) 刑訴法47条は,その本文において,

「訴訟に関する書類は,公判の開廷前には,

これを公にしてはならない。」と定め,そのただし書において,

「公益上の必要その他の事由があって,相当と認められる場合は,

この限りでない。」と定めているところ,本件各被疑事件は,

いずれも現時点においてなお捜査が継続中であるから,

本件各請求書及び本件各許可状は,

いずれも同条により原則的に公開が禁止される

「訴訟に関する書類」に当たることは明らかである。

 

ところで,同条ただし書の規定によって

「訴訟に関する書類」を公にすることを相当と

認めることができるか否かの判断は,

当該「訴訟に関する書類」を公にする目的,必要性の有無,程度,

公にすることによる被告人,被疑者及び関係者の名誉,

プライバシーの侵害,捜査や公判に及ぼす不当な影響等の

弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情を総合的に考慮してされるべきものであり,

当該「訴訟に関する書類」を保管する者の合理的な裁量に

ゆだねられているものと解すべきである。

 

そして,民事訴訟の当事者が,民訴法220条3号後段の規定に基づき,

上記「訴訟に関する書類」に該当する文書の提出を求める場合においても,

当該文書の保管者の上記裁量的判断は尊重されるべきであるが,

当該文書が法律関係文書に該当する場合であって,

その保管者が提出を拒否したことが,

民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無,程度,当該文書が

開示されることによる上記の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし,

その裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用するものであると認められるときは,

裁判所は,当該文書の提出を命ずることができるものと

解するのが相当である(最高裁平成15年(許)第40号同16年5月25日

第三小法廷決定・民集58巻5号1135頁参照)。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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