法律に従って判決裁判所を構成したということはできないとされた事例
(平成11年2月25日最高裁)
事件番号 平成10(オ)1474
最高裁判所の見解
記録によれば、次の事実が認められる。
1 平成八年一二月二五日に開かれた原審の第一回口頭弁論に関与した裁判官は、
裁判長裁判官渋川満、裁判官河野正実及び裁判官岡本岳であり、
この期日に弁論が終結された。
そして、平成九年一月三一日に開かれた第二回口頭弁論の調書には、
裁判長裁判官渋川満、裁判官遠山和光及び裁判官岡本岳が出席し、
裁判長が判決原本に基づいて判決を言い渡した旨の記載があり、
現在原裁判所に保存されている判決原本には、
口頭弁論の終結時に関与した前記三名の裁判官の署名押印がある。
2 しかし、上告代理人が同日送達を受けた判決正本には、
裁判官名の欄に、判決言渡しに関与した裁判長裁判官渋川満、
裁判官遠山和光及び裁判官岡本岳の記載があって、
裁判官河野正実の記載がない。
また、右判決正本二一頁七行目「許されないもの」の次に
「であり、また、調停における合意は、私法上の和解契約とは異なり、
裁判所が、民法六九六条の要件を備え、かつ、
民法九五条の要素の錯誤が存しないことを確認した上で、
成立したものであるから、調停における合意について、
民法九五条の錯誤無効の主張をすることは許されないもの」
との裁判所の判断を示した記載があるが、右判決原本にはその記載がない。
3 上告人らは、上告をした上、原判決には法律に従って
判決裁判所を構成しなかった違法があるとの趣旨を記載した
上告理由書を提出したところ、原審は、改めて、
口頭弁論終結時に関与した三名の裁判官の
記名のある判決正本を当事者双方に送達した。
三 1 前記のとおり、原裁判所に保存されている判決原本には、
原審の口頭弁論終結時に関与した三名の裁判官の署名押印があるから、
右判決原本に基づいて判決が言い渡され、
裁判所書記官において判決正本を作成する際に、
過誤を生じたものと見る余地もないわけではない。
しかしながら、判決正本は、裁判所書記官が、
その権限に基づき、裁判官から交付された
判決原本により作成するものであるところ、
前記二2のとおり、当初上告代理人に送達された
判決正本には裁判官遠山和光の記載があるばかりでなく、
その内容においても裁判所の判断部分に
右判決原本にはない記載があることにかんがみると、
これに相応する判決原本が存在していたのではないかとの疑いが残り、
これを払拭することができない。
そうすると、原判決がその基本となる口頭弁論に関与した
裁判官によりされたことが明らかであるとはいえないから、
法律に従って判決裁判所を構成したということはできない。
2 したがって、原判決には、
旧民訴法三九五条一項一号所定の事由がある。
この点についての論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、
その余の上告理由について判断するまでもなく、
原判決は破棄を免れない。
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