渋谷暴動事件

(平成20年7月14日最高裁)

事件番号  平成16(し)27

 

最高裁判所の見解

本件殺人事件は,申立人が,昭和46年11月14日,

国鉄中野駅に火炎びんや鉄パイプ等を持って

集合した総勢約150名の学生及び労働者の集団を指揮して,

同駅,新宿駅,小田急線代々木八幡駅を経由した後,

同駅から警視庁渋谷警察署神山派出所前を経て

A本店前に至る移動過程において敢行されたものであるが,

確定判決の認定した罪となるべき事実の要旨は,

申立人は,同日午後3時20数分過ぎころ,

東京都渋谷区a町B方前路上において,

前記集団に属する多数の学生,労働者の攻撃を受けて

後退中の巡査C(当時21歳)を発見するや,

鉄パイプ等を持ったD,E,F,G及びHらを含む

数名と共に同巡査を捕捉して順次取り囲み,

申立人の「やれ」との号令や大坂の

「殺せ,殺せ」の怒号に呼応し,

即時同所において,上記の者らと共同して

同巡査が死に至るかもしれないことを知りながら意思を相通じて,

棒立ちのまま無抵抗の同巡査に対し,

所携の鉄パイプ,竹ざお等で同巡査の

頭部,肩部,腹部を多数回にわたって乱打し,

それにより路上に同巡査が倒れるや,同巡査を殺害しようと決意し,

申立人の火炎びん投てきの指示の下に,上記の者ら及び

同巡査をその後順次取り囲むに至った前記集団の者ら数名と

その意思を相通じた上,F,Hらを含む数名の者が,

同巡査目掛けて火炎びん数本を投げ付け,

これを発火炎上させて同巡査に火傷を負わせ,翌15日,

この火傷により同巡査を死亡させて殺害したというものである。

 

C巡査に対する殴打行為について

所論は,Gが申立人を殴打者の1人として識別したのは

顔などを現認したことによるものではなく,

後ろ姿などからきつね色の服を着た男が

殴打している場面を見たことを前提に,

そのきつね色の服を着た男を申立人であると供述しているところ,

新証拠により,本件当日の申立人の服装が

薄青色の背広であったことは疑いようのない事実となったのであり,

Gが目撃したC巡査を殴打していた「きつね色の服を着た男」は,

申立人と全く別人であることが明らかになり,

殴打行為に申立人が関与したことについて

合理的な疑問が生じていると主張する。

 

所論が指摘するとおり,Gは,被告人J等に対する

第19回公判(以下「J19回公判」の例により示す。)において,

本件現場付近の状況に関し,左側の店のシャッター前で5,6人の者が

機動隊員を鉄パイプや竹ざおで殴っていた,その時機動隊員の

左斜め前にいたKの後ろ姿を見ているように記憶している,

 

実際に殴って当たる部分を見たのではないが

Kの特徴であったきつね色の上着の腕が振り上げられたのを見ている,

 

40センチ前後の鉄パイプを持っていた旨供述し,

J21回公判においても,機動隊員を捕まえていた

4,5人の中にKがいたことは確定できる,

自分がKと言っている男はきつね色というか

証言台の色のような上下の背広を着ていた旨供述している。
そこで検討すると,原々審及び原審で提出された新証拠中,

司法警察員作成の昭和46年12月11日付け

総括捜査報告書(写し)には,本件当日午後2時30分ころ,

中野駅に約150名の集団が集合したことが記載された上,

「最前部では,肩車にのった年令21~2歳,

やせ型,小柄,やや面長,色白でボストン型黒ブチ眼鏡,

髪を七三に分けた薄青っぽい背広上下,白ワイシャツ,

ネクタイの男が『我々は渋谷で合流しよう,渋谷駅を焼焔しよう』

等とアジっていた」との記載があるところ,

関係証拠によれば,この男は申立人であると推認される。

 

また,申立人が本件当日青色系統の上着を着ていたとの証拠は

旧証拠中にも存在する。これらの証拠を総合すると,

本件当日の申立人の服装が薄青色の上着であった可能性が高く,

この点に関するG供述には誤りがあったと認められる。
他方で,本件当日,申立人が集団を指揮し,

中野駅でGの肩車に乗って演説し,

渋谷に向かう途中で「虎部隊前へ」と指示し,

また,本件の最後に「道案内」と言って道案内人を呼んだことについては,

申立人自身も認めており,関係証拠上動かし難い事実である。

 

そして,Gは,背広の色の供述に誤りがあるとしても,

公判において,これらの行動をした者についてきつね色

ないし同系統の色の背広上下を着ていたと供述しているのであって,

機動隊員を殴打した者についての前記供述部分も

申立人を指しているものと解され,

この供述によって申立人以外の者の犯行を示しているとはいえない。

 

さらに,Gは,中野駅から新宿駅,代々木八幡駅を経て

神山派出所前付近まで防衛隊として申立人と行動を共にしており,

たとえ,後ろ姿であっても,その姿,格好を見間違えることは考え難い。

 

また,昭和47年2月14日付け検察官調書(謄本。以下の検察官調書も同じ。)では

「Kが鉄パイプで機動隊員を殴りつけながら,

『殺せ,殺せ』とかすれたような異様な声で

叫び続けていたのが印象的だった。」と供述し,

J19回公判においても「その際,Kの声と思う『殺せ,殺せ』

というかなり甲高い声を聞いている。」旨供述し,

声も申立人特定の根拠としているところ,

Gは中野駅等において申立人のアジ演説等を聞いており,

神山派出所前付近では,「虎部隊,前へ出ろ」「突っ込め」などという

申立人の指示の声も聞いているのであって,

本件発生時までに申立人の声を既に何回も聞いていたということができ,

C巡査の殺害を指示した者が申立人であることを

その声から識別できた旨のGの供述は信用することができる。

 

この点,所論は,Gが見た「きつね色」の服の男は,

申立人とは別人であるとして,

Lが目撃した男がこれに該当すると主張するが,

同人は上着は茶系統とうかがわれるものの

長さ2メートル前後の鉄パイプのようなものを持っていたというのであり,

また,同じく該当する可能性があるとされるMが目撃した男についても

「ベージュの薄いコート」を着ていたなどというのであって,

いずれも所持品又は服装においてGのいう

「きつね色の背広上下の男」とは異なっており,

Gがこれらの者と見間違えて供述しているとは考え難い。
そうすると,新証拠によって申立人が着用していた

背広の色に関するG供述に誤りがあることが明らかになったとしても,

なお,確定判決の挙示する検察官調書2通を含め,

申立人がC巡査の殴打に関与していたとの

G供述の信用性は揺らがないというべきである。

 

なお,確定判決の挙げているNの昭和47年2月17日付け

検察官調書及びOの同年2月4日付け,同月10日付け,

同月19日付け各検察官調書についても,

両名ともに中野駅から本件現場付近まで

約1時間にわたり申立人と行動を共にしており

申立人を見間違えることは考え難い上に,

その供述内容も具体的かつ詳細なものであることなどに照らし,

十分に信用することができるものである。

 

火炎びん投てきの「指示」について

所論は,確定判決は,上記の点について,

Fの昭和47年2月16日付け検察官調書及びHの同年4月12日付け

検察官調書に依拠しているが,声による識別であること,

Fの供述が「火を付けろ」であり,Hの供述が

「離れろ,火炎びんを投げろ」であり,

その内容が矛盾していることなど

それぞれの供述が信用できないぜい弱な証拠である,

申立人がそのような指示はしていない旨の新証拠であるFの供述書に加え,

他の新証拠によれば,Gが供述している服装の色の男は申立人とは

別に存在しており,同人を申立人と識別したG供述が

強引に録取されたことが認められることを考慮すると,

F及びHの申立人識別供述の評価にも根本的な影響が生じ,

火炎びん投てきの指示を申立人がしたことについて

合理的な疑問が生じていると主張する。

 

新証拠であるFの供述書の内容は,

「Kを見たのは,『銃を取れ。』の声がした時だけで,

Kが,その他にC巡査に対し,殴ったり

火炎びんを投げたりなどの行為をしたのは見ていない。」

というものであるが,「火を付けろ」とのKの指示は

聞いていないという趣旨を含むものとして

提出されているものと解される。

 

しかし,その趣旨の証拠は旧証拠中にも存在する。

 

すなわち,Fは,J26回公判において,

「Kが『銃を奪え』と言ったが,銃を奪うことはできなかった。

その後,少し離れて,火がばっと出た。

『火を付けろ』というような声は聞かなかった。」と供述し,

また,被告人Kに対する第3回公判においては,

「火炎びんを投げるのに誰かが指示,

命令したような声は聞いた記憶がない。」

と供述している。

 

所論のいうF新供述は旧証拠であるFの公判供述の繰り返しであり,

これが本件控訴審裁判所に提出されていたとしても,

その事実認定に影響を与えるようなものではなかったと認められ,

明白性があるとはいえない。

所論後段の部分は既に2において判断したとおりである。

 

なお,確定判決の挙げるF及びHの各検察官調書は,

声による識別であるとしても,間近で聞いていることに加え,

両名ともに中野駅から本件現場付近まで

約1時間にわたり防衛隊として申立人に近接して行動を共にし,

その演説等を聞いた上でのものであり,また,

その供述する申立人の指示内容が矛盾するものともいえず,

その信用性に問題はないものと認められる。

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