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【判例】熟児網膜症により失明したことを理由とする慰謝料の請求について担当の眼科医師に注意義務違反 (平成4年6月8日最高裁)熟児網膜症により失明したことを理由とする慰謝料の請求について担当の眼科医師に注意義務違反

(平成4年6月8日最高裁)

事件番号  昭和62(オ)362

 

最高裁判所の見解

人の生命及び健康を管理する業務に従事する者は、

その業務の性質に照らし、危険防止のため必要とされる

最善の注意義務を尽くすことを要求されるが

(最高裁昭和三一年(オ)第一〇六五号同三六年二月一六日

第一小法廷判決・民集一五巻二号二四四頁参照)、

右注意義務の基準となるべきものは、一般的には診療当時の

いわゆる臨床医学の実践における医療水準であり

(最高裁昭和五四年(オ)第一三八六号同五七年三月三〇日第三小法廷判決・

裁判集民事一三五号五六三頁参照)、医師は、

患者との特別の合意がない限り、右医療水準を超えた医療行為を前提とした

ち密で真しかつ誠実な医療を尽くすべき注意義務まで負うものではなく、

その違反を理由とする債務不履行責任、不法行為責任を負うことはないというべきである。

 

これを本件についてみると、本症に対する光凝固法は、

当時の医療水準としてその治療法としての有効性が確率され、

その知見が普及定着してはいなかったし、

本症には他に有効な治療法もなかったというのであり、また、

治療についての特別な合意をしたとの主張立証もないのであるから、

E医師には、本症に対する有効な治療法の存在を前提とするち密で真し

かつ誠実な医療を尽くすべき注意義務はなかったというべきであり、

被上告人らが前記のようなあきらめ切れない心残り等の

感情を抱くことがあったとしても、E医師に対し、

B1に光凝固法等の受療の機会を与えて失明を防止するための

医療行為を期待する余地はなかったのである。

 

しかるに、原判決が、同医師が本症に対する正確な診断と

経過観察の機会を失わせたこと、B1の眼症を白内障と誤診したこと等を指摘して、

同医師が著しくずさんで不誠実な医療行為をしたと評価し、

唯一の可能性であったかもしれない光凝固法受療の機会を

とらえる余地さえ与えなかったとして、上告人の責任を肯認したのは、結局、

本件医療契約の内容として、同医師に対し、

医療水準を超えた医療行為を前提とした上で、

ち密で真しかつ誠実な医療を尽くすべき注意義務を求め、

その義務違反による法的責任を肯認したものといわざるを得ない

(なお、原判決は同医師がカルテを改ざんしたことを認定しているが、

右事実は、一般人の医師に対する信頼を著しく裏切るものであって、

強く非難されるべきではあるけれども、本件請求の原因とされている

同医師の医療行為に係る法的責任とは、別個の問題である。)。

 

したがって、原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があるというべきで、

右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、

この点をいう論旨は理由があり、原判決中、

上告人敗訴部分は破棄を免れない。

 

そして、前記の確定した事実関係の下では、

被上告人らの本件医療契約に基づく債務不履行又は

右契約の存在を前提とした不法行為に基づく

本件請求が理由のないことは

以上の説示に照らして明らかであるから、

右請求は棄却すべきものである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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