特例選挙区の存置、議員定数配分規定の適法性

(平成7年3月24日最高裁)

事件番号  平成6(行ツ)125

 

最高裁判所の見解

一 東京都議会の議員の定数、選挙区及び選挙区への定数配分は、

平成五年六月二七日当時、次のとおり定められていた。

 

すなわち、都道府県の議会の議員の定数については、

地方自治法により、その人口数に応じた定数の

基準等が定められているが(九〇条一項)、

都にあっては特別区の存する区域の人口を一〇〇万人で除して

得た数(ただし、一三〇人を定限とする。)を限度として

条例で増加をすることができ(同条二項)、

右一、二項による議員の定数は、条例で特に

これを減少することができるものとされている(同条三項)。

 

そして、都道府県議会の議員の選挙区については、

公職選挙法(平成六年法律第二号による改正前のもの。

以下「公選法」という。)により、

郡市の区域によるものとし(同法一五条一項)、

ただし、その区域の人口が当該都道府県の人口を

当該都道府県議会の議員の定数をもって除して

得た数(以下「議員一人当たりの人口」という。)の

半数に達しないときは、条例で隣接する他の郡市の区域と合わせて

一選挙区を設けなければならず(同条二項。

以下「強制合区」という。)、その区域の人口が

議員一人当たりの人口の半数以上であっても

議員一人当たりの人口に達しないときは、

条例で隣接する他の郡市の区域と合わせて

一選挙区を設けることができるものとされている(同条三項)。

 

もっとも、強制合区については例外が認められことが、

市町村行政を補完しつつ、長期的展望に立った

均衡のとれた行政施策を行うために必要であり、

そのための地域代表を確保することが必要とされる場合が

あるという趣旨の下に、昭和四一年法律第七七号による

公選法の改正により現行の規定となったものと解される。

 

そして、具体的にいかなる場合に特例選挙区の設置が

認められるかについては、客観的な基準が

定められているわけではないから、結局、

右のような公選法二七一条二項の規定の趣旨に照らして、

当該都道府県の行政施策の遂行上当該地域からの

代表を確保する必要性の有無・程度、隣接の郡市との

合区の困難性の有無・程度等を総合判断して

決することにならざるを得ないところ、

それには当該都道府県の実情を考慮し、

当該都道府県全体の調和ある発展を図るなどの観点からする

政策的判断をも必要とすることが明らかである。

 

したがって、特例選挙区の設置を適法なものとして

是認し得るか否かは、この点に関する都道府県議会の判断が

右のような観点からする裁量権の合理的な行使として

是認されるかどうかによって決するよりほかはない。

 

もっとも、都道府県議会の議員の選挙区に関して

公選法一五条一項ないし三項が規定しているところからすると、

同法二七一条二項は、当該選挙区の人口を

議員一人当たりの人口で除して得た数(以下「配当基数」という。)が

〇・五を著しく下回る場合には、特例選挙区の設置を

認めない趣旨であると解されるから、このような場合には、

特例選挙区の設置についての都道府県議会の判断は、

合理的裁量の限界を超えているものと推定するのが相当である。

以上は、当審の判例の趣旨とするところである

(最高裁昭和六三年(行ツ)第一七六号

平成元年一二月一八日第一小法廷判決・

民集四三巻一二号二一三九頁、

最高裁平成元年(行ツ)第一五号同年一二月二一日第一小法廷判決・

民集四三巻一二号二二九七頁、最高裁平成四年(行ツ)第一七二号

同五年一〇月二二日第二小法廷判決・民集四七巻八号五一四七頁)。

 

そこで、東京都議会議員の定数並びに選挙区及び

各選挙区における議員の数に関する条例

(昭和四四年東京都条例第五五号。以下「本件条例」という。)についてみると、

原審の適法に確定するところによれば、

(1) 東京都議会においては、平成五年六月二七日施行の

東京都議会議員の選挙(以下「本件選挙」という。)に先立ち、

東京都議会各会派代表一五名で構成する

東京都議会議員定数等検討委員会を設置し、

合計一二回の審議を重ねるとともに、

併行して小委員会を一五回開催して、

定数是正問題等について全面的検討を行うこととし、

平成二年の国勢調査の結果のほか、他県における定数問題の状況、

今後の人口予測、東京都の特殊性などを考慮して、

定数是正問題について審議、検討を行った、

(2) 平成二年の国勢調査の結果によれば、

千代田区選挙区の人口が議員一人当たりの人口の半数に達しないこと、

その配当基数は〇・四二六であることが明らかになった、

(3) 東京都議会では、平成四年六月一七日、

右小委員会及び東京都議会議員定数等検討委員会の検討結果を踏まえて

本件条例の改正を行ったが(以下「本件改正」という。)、

この改正に当たり、千代田区選挙区については、

その配当基数が〇・五を著しく下回るものではないこと、

千代田区が我が国の政治的、経済的中枢として担ってきた

歴史的かつ独自の意義、役割及び

特別区制度における地域代表としての議員の

必要性等を考慮して、これを特例選挙区として

存置することにしたというのである。

 

右の事実関係によれば、東京都議会は、

千代田区が我が国の政治的、経済的中枢として担ってきた

歴史的かつ独自の意義、役割及び特別区制度における地域代表としての

議員の必要性などを考慮し、

東京都全体の調和ある発展を図るなどの観点から、

千代田区選挙区を特例選挙区として存置することの必要性を判断し、

地域間の均衡を図るための諸般の要素を考慮した上で、

これを特例選挙区として存置することを

決定したものということができる。

 

そして、千代田区選挙区の配当基数は、

いまだ特例選挙区の設置が許されない程度に至っていないことは明らかであるし、

他に、東京都議会が、本件改正後の本件条例において

千代田区選挙区を特例選挙区として存置したことが

社会通念上著しく不合理であることが

明らかであると認めるべき事情もうかがわれない。

 

所論主張のような原因によって千代田区の人口が減少したことは、

右の判断を左右するものではない。

 

したがって、同議会が同選挙区を特例選挙区として存置したことは、

同議会に与えられた裁量権の合理的な行使として

是認することができるから、本件改正後の

本件条例が千代田区選挙区を特例選挙区として存置したことは適法である。

 

2 次に、都道府県議会の議員の選挙に関し、当該都道府県の住民が、

その選挙権の内容、すなわち投票価値においても

平等に取り扱われるべきであることは憲法の

要求するところであると解すべきであり、

公選法一五条七項は、憲法の右要請を受け、

都道府県議会の議員の定数配分につき、

人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし、

各選挙人の投票価値が平等であるべきことを

強く要求しているものと解される。

 

もっとも、前記のような都道府県議会の

議員の定数、選挙区及び選挙区への

定数配分に関する法の定めからすれば、

同じ定数一を配分された選挙区の中で、

配当基数が〇・五をわずかに上回る選挙区と

配当基数が一をかなり上回る選挙区とを比較した場合には、

右選挙区間における議員一人に対する人口の較差が

一対三を超える場合も生じ得る。

 

まして、特例選挙区を含めて比較したときには、

右の較差が更に大きくなることは避けられないところである。

 

また、公選法一五条七項ただし書は、

特別の事情があるときは、各選挙区において選挙すべき議員の数を、

おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を

考慮して定めることができるとしているところ、

右ただし書の規定を適用していかなる事情の存するときに

右の修正を加え得るか、また、

どの程度の修正を加え得るかについて

客観的基準が存するものでもない。

 

したがって、定数配分規定が公選法一五条七項の規定に

適合するかどうかについては、

都道府県議会の具体的に定めるところが、

前記のような選挙制度の下における裁量権の

合理的な行使として是認されるかどうかによって決するほかはない。

 

しかし、定数配分規定の制定又はその改正により

具体的に決定された定数配分の下における

選挙人の投票の有する価値に不平等が存し、

あるいはその後の人口の変動により右不平等が生じ、

それが都道府県議会において地域間の均衡を図るため

通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、

一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているときは、

右のような不平等は、もはや都道府県議会の

合理的裁量の限界を超えているものと推定され、

これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、

公選法一五条七項違反と判断されざるを得ないものというべきである。

以上は、当審の判例の趣旨とするところである(前掲各小法廷判決)。

 

そこで、原審の適法に確定した事実に基づき、

本件改正後の本件条例における定数配分の状況についてみると、

本件選挙当時においては、特例選挙区を除いた

その他の選挙区間における議員一人に対する

人口の最大較差は一対二・〇四

(中央区選挙区対武蔵野市選挙区。以下、較差に関する数値は、

いずれも概数である。)、特例選挙区と

その他の選挙区間における右最大較差は

一対三・五二(千代田区選挙区対武蔵野市選挙区)であり、

いわゆる逆転現象は一八通りあるが、

定数二人の顕著な逆転現象は一通りのみであった。

 

そして、本件選挙当時における各選挙区の配当基数に応じて

定数を配分した人口比定数(公選法一五条七項本文の人口比例原則に

基づいて配分した定数)を算出してみると、右人口比定数による

議員一人に対する人口の最大較差は、

特例選挙区を除くその他の選挙区間においても、

特例選挙区とその他の選挙区間においても、

本件条例の下における右の較差と同一の値となるのであって、

本件条例の定数配分規定の下における

議員一人に対する人口の最大較差は、

特例選挙区の設置を含む前記の

選挙区割に由来するものということができる。

 

公選法が定める前記のような

都道府県議会の議員の選挙制度の下においては、

本件選挙当時における右のような投票価値の不平等は、

東京都議会において地域間の均衡を図るために

通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、

一般的に合理性を有するものとは

考えられない程度に達していたものとはいえず、

同議会に与えられた裁量権の

合理的な行使として是認することができる。

 

したがって、本件改正後の本件条例に係る定数配分規定は、

公選法一五条七項に違反するものではなく、

適法というべきである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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