特例選挙区の存置の適法性、議員定数配分規定の適法性

(平成5年10月22日最高裁)

事件番号  平成4(行ツ)94

 

最高裁判所の見解

一 都道府県議会の議員の定数、選挙区及び選挙区への定数配分は、

現行法上、次のとおり定められている。

 

すなわち、都道府県の議会の議員の定数については、

地方自治法九〇条一項により、その人口数に応じた

定数の基準等が定められているが、同条三項によれば、

右一項による定数は、条例で特に

これを減少することができるものとされている。

 

そして、公職選挙法(以下「公選法」という。)は、

都道府県議会の議員の選挙区は、

郡市の区域によるものとし(同法一五条一項)、ただし、

その区域の人口が当該都道府県の人口を

当該都道府県議会の議員の定数をもって除して得た数

(以下「議員一人当たりの人口」という。)の半数に

達しないときは、条例で隣接する他の郡市の区域と合わせて

一選挙区を設けなければならず(同条二項。以下「強制合区」という。)、

その区域の人口が議員一人当たりの人口の半数以上であっても

議員一人当たりの人口に達しないときは、

条例で隣接する他の郡市の区域と合わせて

一選挙区を設けることができるとしている(同条三項)。

 

もっとも、強制合区については例外が認められており、

昭和四一年一月一日当時において設けられていた選挙区については、

当該区域の人口が議員一人当たりの人口の

半数に達しなくなった場合においても、

当分の間、条例で当該区域をもって一選挙区を

設けることができるものとされている

(同法二七一条二項。以下、この規定によって

存置が認められた選挙区を「特例選挙区」という。)。

 

このようにして定められた各選挙区において

選挙すべき議員の数は、人口に比例して、

条例で定めなければならない(同法一五条七項本文)が、

特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、

地域間の均衡を考慮して定めることができるとされている(同項ただし書)。

 

右の各規定からすれば、議員の法定数を減少するかどうか、

特例選挙区を設けるかどうか、議員定数の配分に当たり

人口比例の原則を修正するかどうかについては、

都道府県の議会にこれらを決定する裁量権が原則として

与えられていると解される。

 

二 そこで、本件における議員定数配分の適否について検討する。

 

1 特例選挙区に関する公選法二七一条二項の規定は、

社会の急激な工業化、産業化に伴い、

農村部から都市部への人口の急激な変動が

現れ始めた状況に対応したものであるが、また、郡市が、

歴史的にも、政治的、経済的、社会的にも独自の実体を有し、

一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえ得ることに照らし、

この地域的まとまりを尊重し、

これを構成する住民の意思を都道府県政に反映させることが、

市町村行政を補完しつつ、長期的展望に立った

均衡のとれた行政施策を行うために必要であり、

そのための地域代表を確保することが必要とされる場合が

あるという趣旨の下に、昭和四一年法律第七七号による

公選法の改正により現行の規定となったものと解される。

 

そして、具体的にいかなる場合に

特例選挙区の設置が認められるかについては、

客観的な基準が定められているわけではないから、結局、

右のような公選法二七一条二項の規定の趣旨に照らして、

当該都道府県の行政施策の遂行上当該地域からの

代表を確保する必要性の有無・程度、隣接の郡市との

合区の困難性の有無・程度等を総合判断して

決することにならざるを得ないところ、

それには当該都道府県の実情を考慮し、

当該都道府県全体の調和ある発展を図るなどの

観点からする政策的判断をも必要とすることが明らかである。

 

したがって、特例選挙区の設置を

適法なものとして是認し得るか否かは、

この点に関する都道府県議会の判断が

右のような観点からする裁量権の合理的な行使として

是認されるかどうかによって決するよりほかはない。

 

もっとも、都道府県議会の議員の選挙区に関して

公選法一五条一項ないし三項が規定しているところからすると、

同法二七一条二項は、当該選挙区の人口を

議員一人当たりの人口で除して得た数(以下「配当基数」という。)が

〇・五を著しく下回る場合には、特例選挙区の設置を

認めない趣旨であると解されるから、このような場合には、

特例選挙区の設置についての都道府県議会の判断は、

合理的裁量の限界を超えているものと推定するのが相当である。

 

以上は、当裁判所の判例の趣旨とするところである

(最高裁昭和六三年(行ツ)第一七六号平成元年一二月一八日第一小法廷判決・

民集四三巻一二号二一三九頁、最高裁平成元年(行ツ)第一五号同年一二月二一日

第一小法廷判決・民集四三巻一二号二二九七頁)。

 

そこで、千葉県議会議員の選挙区等に

関する条例(昭和四九年千葉県条例第五五号。以下「本件条例」という。)についてみるのに、

原審の適法に確定するところによれば、

(1) 平成三年四月七日施行の

千葉県議会議員選挙(以下「本件選挙」という。)当時の選挙区は三八であり、

このうち海上郡、匝瑳郡、勝浦市の三選挙区が特例選挙区とされ、

各一人の定数が配分されていた、

(2) 千葉県議会では、本件選挙に先立ち、

特例選挙区の存廃も含めて本件条例の改正につき

種々検討が続けられた結果、最終的には

七増案(印旛郡、鎌ケ谷市、君津市、市川市、成田市、

茂原市、我孫子市・a町選挙区の七選挙区の定数を

各一ずつ増員する案。なお、我孫子市・a町選挙区については、

人口増加が著しく、市制施行を目指しているa町を

独立の選挙区(東葛飾郡選挙区)とし、我孫子市選挙区、

東葛飾郡選挙区(b町を除く。)の定数はそれぞれ二人、一人とされた。)が

可決成立して本件条例が改正された(以下、右改正を「平成三年改正」という。)、

(3) その際、海上郡、匝瑳郡、勝浦市の三選挙区については、

他の地域、特に首都近郊内地域における急激な

人口増のため配当基数が〇・五を割るに至ったという

人口異動の特殊性があることや本件改正に至るまでの

議員選出の歴史的経緯、地域からの代表確保の要請等を考慮し、

地域間の均衡を図るため、特例選挙区として存置された、

(4) 平成二年の国勢調査の結果による

右三選挙区の配当基数は、海上郡選挙区及び匝瑳郡選挙区が

〇・三六、勝浦市選挙区が〇・四二(右の配当基数の数値は、

いずれも概数である。)であった、というのである。

 

右の事実関係によれば、海上郡、匝瑳郡、勝浦市の

三選挙区の配当基数は、いまだ特例選挙区の設置が

許されない程度にまでは至っていないものというべきであり、

他に、千葉県議会が平成三年改正後の本件条例において

右の三選挙区を特例選挙区として存置したことが

社会通念上著しく不合理であることが明らかであると

認めるべき事情もうかがわれないから、同議会が、

右の三選挙区を特例選挙区として存置したことは、

同議会に与えられた裁量権の合理的な

行使として是認することができる。

 

したがって、平成三年改正後においても

本件条例が右の三選挙区を特例選挙区として存置したことは適法である。

 

2 次に、都道府県議会の議員の選挙に関し、

当該都道府県の住民が、その選挙権の内容、

すなわち投票価値においても平等に取り扱われるべきであることは

憲法の要求するところであると解すべきであり、

公選法一五条七項は、憲法の右要請を受け、

都道府県議会の議員の定数配分につき、

人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし、

各選挙人の投票価値が平等であるべきことを強く要求しているものと解される。

 

もっとも、前記のような都道府県議会の議員の定数、

選挙区及び選挙区への定数配分に関する現行法の定めからすれば、

同じ定数一を配分された選挙区の中で、

配当基数が〇・五をわずかに上回る選挙区と配当基数が

一をかなり上回る選挙区とを比較した場合には、

右選挙区間における議員一人に対する人口の較差が一対三を

超える場合も生じ得る。

 

まして、特例選挙区を含めて比較したときには、

右の較差が更に大きくなることは避けられないところである。

 

また、公選法一五条七項ただし書は、特別の事情があるときは、

各選挙区において選挙すべき議員の数を、おおむね人口を基準とし、

地域間の均衡を考慮して定めることができるとしているところ、

右ただし書の規定を適用していかなる

事情の存するときに右の修正を加え得るか、また、

どの程度の修正を加え得るかについて客観的基準が存するものでもない。

 

したがって、議員定数の配分を定めた

条例の規定(以下「定数配分規定」という。)が

公選法一五条七項の規定に適合するかどうかについては、

都道府県議会の具体的に定めるところが

右のような選挙制度の下における裁量権の合理的な行使として

是認されるかどうかによって決するほかはない。

 

しかし、定数配分規定の制定又はその改正により

具体的に決定された定数配分の下における

選挙人の投票の有する価値に不平等が存し、

あるいはその後の人口の変動により右不平等が生じ、

それが都道府県の議会において地域間の均衡を図るなどのため

通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、

一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているときは、

右のような不平等は、もはや都道府県の議会の

合理的裁量の限界を超えているものと推定され、

これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、

公選法一五条七項違反と判断されざるを得ないものというべきである。

 

以上は、当裁判所の判例の趣旨とするところである

(最高裁昭和五八年(行ツ)第一一五号同五九年五月一七日第一小法廷判決・

民集三八巻七号七二一頁、前掲各第一小法廷判決、

最高裁平成二年(行ツ)第六四号同三年四月二三日第三小法廷判決・

民集四五巻四号五五四頁)。

 

そこで、原審の適法に確定した事実に基づき、

平成三年改正後の本件条例における定数配分の状況についてみるのに、

本件選挙当時においては、特例選挙区を除いた

その他の選挙区間における議員一人に対する人口の最大較差は

一対二・四五(長生郡選挙区対柏市選挙区。

以下、較差に関する数値は、いずれも概数である。)、

特例選挙区とその他の選挙区間における右最大較差は

一対三・四八(匝瑳郡選挙区対柏市選挙区)であり、

いわゆる逆転現象は一六とおりあるが、

定数二人以上の差のある顕著な逆転現象は

解消されていたというのである。

 

そして、本件選挙当時における各選挙区の

人口、配当基数及び配当基数に応じて定数を配分した

人口比定数(公選法一五条七項本文の人口比例原則に基づいて

配分した定数)は、原判決添付第三表のとおりであり、

右人口比定数による特例選挙区を除くその他の選挙区間における

議員一人に対する人口の最大較差は一対二・七六

(八日市場市選挙区対君津市選挙区)となり、

特例選挙区とその他の選挙区間の議員一人に対する

人口の最大較差は一対四・〇七(匝瑳郡選挙区対君津市選挙区)となる。

 

言い換えれば、公選法一五条七項本文に従って

議員定数を配分したとした場合の議員一人に対する人口の最大較差は、

特例選挙区を除いた場合には一対二・七六、

特例選挙区を含めた場合には一対四・〇七となるはずのところを、

千葉県議会が公選法一五条七項ただし書を適用して

本件条例の平成三年改正を行った結果、その最大較差は、

右のとおり特例選挙区を除いた場合には

一対二・四五、特例選挙区を含めた場合には一対三・四八になっており、

いずれの較差も縮小されているということになる。

 

公選法が定める前記のような都道府県議会の議員の選挙制度の下においては、

本件選挙当時における右のような投票価値の不平等は、

千葉県議会において地域間の均衡を図るために

通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、

一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達していたものとはいえず、

同議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができる。

 

したがって、平成三年改正後の本件条例に係る定数配分規定は、

公選法一五条七項に違反するものではなく、

適法というべきである。

 

右判示と同様の見解の下に、本件定数配分規定は

公選法一五条七項に違反するものではないとした原審の判断は、

正当なものとして是認できる。所論法令違背の主張は、

独自の見解に立って、原審の右判断における

法令解釈の誤りをいうものにすぎず、採用することができない。

 

三 さらに、所論違憲の主張は、帰するところ、

本件において公選法二七一条二項に基づく

特例選挙区の存置を是認することは、

憲法一四条一項に違反する旨を主張するものというべきところ、

前示のような特例選挙区に関する公選法二七一条二項の

立法の趣旨、平成三年改正後の本件条例において

前記三選挙区が特例選挙区として存置された理由、

右三選挙区の配当基数、その結果生じる

各選挙区間の議員一人に対する人口の較差等を総合すれば、

平成三年改正後の本件条例において公選法二七一条二項の規定を

適用して前記三選挙区を特例選挙区として存置したことが、

憲法一四条一項に違反するものでないことは、

当裁判所大法廷判決(最高裁昭和四九年

(行ツ)第七五号同五一年四月一四日判決・

民集三〇巻三号二二三頁、最高裁昭和五四年(行ツ)第六五号

同五八年四月二七日判決・民集三七巻三号三四五頁、

最高裁平成三年(行ツ)第一一一号同五年一月二〇日判決・

民集四七巻一号六七頁)の趣旨に照らして

明らかであるということができる。

論旨は採用することができない。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

判例をわかりやすく解説コーナー


スポンサードリンク