特許権の効力の準拠法

(平成14年9月26日最高裁)

事件番号  平成12(受)580

 

最高裁判所の見解

(1) 本件差止請求及び本件廃棄請求は,

私人の財産権に基づく請求であり,

本件両当事者が住所又は本店所在地を我が国とする日本人及び日本法人であり,

我が国における行為に関する請求ではあるが,

米国特許法により付与された権利に基づく請求であるという点において,

渉外的要素を含むものであるから,

準拠法を決定する必要がある。

 

特許権についての属地主義の原則とは,各国の特許権が,

その成立,移転,効力等につき当該国の法律によって定められ,

特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを

意味するものである(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日

第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁参照)。

 

すなわち,各国はその産業政策に基づき発明につき

いかなる手続でいかなる効力を付与するかを

各国の法律によって規律しており,我が国においては,

我が国の特許権の効力は我が国の

領域内においてのみ認められるにすぎない。

 

しかし,このことから,外国特許権に関する私人間の紛争において,

法例で規定する準拠法の決定が不要となるものではないから,

原審の上記1(1)の判断は,相当でない。

 

(2) 米国特許権に基づく差止め及び廃棄請求は,

正義や公平の観念から被害者に生じた過去の損害の

てん補を図ることを目的とする不法行為に基づく請求とは

趣旨も性格も異にするものであり,

米国特許権の独占的排他的効力に基づくものというべきである。

 

したがって,米国特許権に基づく差止め及び廃棄請求については,

その法律関係の性質を特許権の効力と決定すべきである。

 

特許権の効力の準拠法に関しては,法例等に直接の定めがないから,

条理に基づいて,当該特許権と最も密接な関係がある国である

当該特許権が登録された国の法律によると解するのが相当である。

 

けだし,(ア) 特許権は,国ごとに出願及び登録を経て

権利として認められるものであり,

(イ) 特許権について属地主義の原則を採用する国が多く,

それによれば,各国の特許権が,その成立,移転,効力等につき

当該国の法律によって定められ,特許権の効力が当該国の領域内においてのみ

認められるとされており,

(ウ)特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められる以上,

当該特許権の保護が要求される国は,登録された国であることに照らせば,

特許権と最も密接な関係があるのは,当該特許権が登録された国と

解するのが相当であるからである。

 

したがって,特許権に基づく差止め及び廃棄請求の準拠法は,

当該特許権が登録された国の法律であると解すべきであり,

本件差止請求及び本件廃棄請求については,

本件米国特許権が登録された国であるアメリカ合衆国の法律が準拠法となる。

 

その準拠法が我が国の特許法又は条約であるとした

原審の上記1(2)の判断は,相当でない。

 

(3) 米国特許法271条(b)項は,特許権侵害を積極的に誘導する者は

侵害者として責任を負う旨規定し,

直接侵害行為が同国の領域内で行われる限りその領域外で

積極的誘導が行われる場合をも含むものと解されている。

 

また,同法283条は,特許権が侵害された場合には,

裁判所は差止めを命ずることができる旨規定し,

裁判所は侵害品の廃棄を命ずることができるものと解されている。

 

したがって,同法271条(b)項,283条によれば,

本件米国特許権の侵害を積極的に誘導する行為については,

その行為が我が国においてされ,又は侵害品が我が国内にあるときでも,

侵害行為に対する差止め及び侵害品の廃棄請求が認容される余地がある。

 

しかし,我が国は,特許権について前記属地主義の原則を採用しており,

これによれば,各国の特許権は当該国の領域内においてのみ

効力を有するにもかかわらず,本件米国特許権に基づき

我が国における行為の差止め等を認めることは,

本件米国特許権の効力をその領域外である我が国に及ぼすのと

実質的に同一の結果を生ずることになって,

我が国の採る属地主義の原則に反するものであり,また,

我が国とアメリカ合衆国との間で互いに

相手国の特許権の効力を自国においても

認めるべき旨を定めた条約も存しないから,

本件米国特許権侵害を積極的に誘導する行為を

我が国で行ったことに米国特許法を

適用した結果我が国内での行為の差止め又は

我が国内にある物の廃棄を命ずることは,

我が国の特許法秩序の基本理念と相いれないというべきである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

判例をわかりやすく解説コーナー


スポンサードリンク