生活保護法3条又は8条2項

(平成24年2月28日最高裁)

事件番号  平成22(行ツ)392

 

この裁判は、

生活扶助の老齢加算の廃止を内容とする生活保護法による

保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)の改定が

生活保護法3条又は8条2項の規定に違反しないとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

1(1) 上告人らは,本件改定は,

被保護者は正当な理由がなければ既に決定された保護を

不利益に変更されることがないと定める生活保護法56条に反すると主張する。

 

しかし,同条は,既に保護の決定を受けた個々の

被保護者の権利及び義務について定めた規定であって,

保護の実施機関が被保護者に対する保護を一旦決定した場合には,

当該被保護者について,同法の定める変更の事由が生じ,

保護の実施機関が同法の定める変更の手続を正規に執るまでは,

その決定された内容の保護の実施を受ける

法的地位を保障する趣旨のものであると解される。

 

このような同条の規定の趣旨に照らすと,

同条にいう正当な理由がある場合とは,既に決定された

保護の内容に係る不利益な変更が,同法及びこれに基づく

保護基準の定める変更,停止又は廃止の要件に適合する場合を

指すものと解するのが相当である。

 

したがって,保護基準自体が減額改定されることに基づいて

保護の内容が減額決定される本件のような場合については,

同条が規律するところではないというべきである。

 

(2) 生活保護法3条によれば,同法によ求めるものであって,

保護基準の内容を規律するものではない。

 

また,同条が要保護者に特別な需要が存在する場合において

保護の内容について特別な考慮をすべきことを定めたものであることに照らせば,

仮に加算の減額又は廃止に当たって同条の趣旨を参酌するとしても,

上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権に基づく

高齢者の特別な需要の存否に係る判断を基礎としてこれをすべきことは明らかである。

 

(3) また,老齢加算の全部についてその支給の根拠となる

上記の特別な需要が認められない場合であっても,

老齢加算の廃止は,これが支給されることを前提として

現に生活設計を立てていた被保護者に関しては,

保護基準によって具体化されていたその期待的利益の喪失を来す

側面があることも否定し得ないところである。

 

そうすると,上記のような場合においても,厚生労働大臣は,

老齢加算の支給を受けていない者との公平や国の財政事情といった見地に基づく

加算の廃止の必要性を踏まえつつ,被保護者のこのような

期待的利益についても可及的に配慮するため,

その廃止の具体的な方法等について,激変緩和措置の要否などを含め,

上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの

裁量権を有しているものというべきである。

 

(4) そして,老齢加算の減額又は廃止の要否の前提となる

最低限度の生活の需要に係る評価や被保護者の期待的利益についての

可及的な配慮は,前記(2)及び(3)のような専門技術的な考察に基づいた

政策的判断であって,老齢加算の支給根拠及びその額等については,

それまでも各種の統計や専門家の作成した資料等に基づいて

高齢者の特別な需要に係る推計や加算対象世帯と

一般世帯との消費構造の比較検討がされてきたところである。

 

これらの経緯等に鑑みると,

老齢加算の廃止を内容とする保護基準の改定は,

① 当該改定の時点において70歳以上の高齢者には

老齢加算に見合う特別な需要が認められず,

高齢者に係る当該改定後の生活扶助基準の内容が

高齢者の健康で文化的な生活水準を維持するに足りるものであるとした

厚生労働大臣の判断に,最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び

手続における過誤,欠落の有無等の観点からみて

裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合,

あるいは,② 老齢加算の廃止に際し激変緩和等の措置を

採るか否かについての方針及びこれを採る場合において

現に選択した措置が相当であるとした同大臣の判断に,

被保護者の期待的利益や生活への影響等の観点からみて

裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に,

生活保護法3条,8条2項の規定に違反し,

違法となるものというべきである。

 

2(1) 前記事実関係等によれば,専門委員会が中間取りまとめにおいて

示した意見は,特別集計等の統計や資料等に基づき,

① 無職単身世帯の生活扶助相当消費支出額を比較した場合,

いずれの収入階層でも70歳以上の者の需要は60ないし

69歳の者のそれより少ないことが示されていたこと,

② 70歳以上の単身者の生活扶助額(老齢加算を除く。)の平均は,

第Ⅰ-5分位の同じく70歳以上の単身無職者の

生活扶助相当消費支出額を上回っていたこと,

③ 昭和59年度から平成14年度までにおける生活扶助基準の改定率は,

消費者物価指数及び賃金の各伸び率を上回っており,

特に同7年度以降の比較では後二者がマイナスで推移しているにもかかわらず

プラスとなっていたこと,

④ 昭和58年度以降,被保護勤労者世帯の消費支出の割合は

一般勤労者世帯の消費支出の7割前後で推移していたこと,

⑤ 昭和55年と平成12年とを比較すると第Ⅰ-10分位及び

被保護勤労者世帯の平均のいずれにおいても

消費支出に占める食料費の割合(エンゲル係数)が

低下していることなどが勘案されたものであって,

統計等の客観的な数値等との合理的関連性や

専門的知見との整合性に欠けるところはない。

 

そして,70歳以上の高齢者に

老齢加算に見合う特別な需要が認められず,

高齢者に係る本件改定後の生活扶助基準の内容が健康で

文化的な生活水準を維持するに足りない程度にまで

低下するものではないとした厚生労働大臣の判断は,

専門委員会のこのような検討等を経た

前記第1の3(5)アの意見に沿って行われたものであり,

その判断の過程及び手続に過誤,欠落があると

解すべき事情はうかがわれない。

 

(2) また,前記事実関係等によれば,本件改定が老齢加算を

3年間かけて段階的に減額して廃止したことも,

専門委員会の前記第1の3(5)ウの意見に沿ったものであるところ,

平成11年度における老齢加算のある被保護者世帯の貯蓄純増は

老齢加算の額に近似した水準に達しており,

老齢加算のない被保護者世帯の貯蓄純増との差額も月額で

5000円を超えていたというのであるから,

3年間かけて段階的に老齢加算を減額して廃止することによって

被保護者世帯に対する影響は

相当程度緩和されたものと評価することができる上,

厚生労働省による生活扶助基準の水準の定期的な検証も

前記第1の3(5)イの意見を踏まえて生活水準の急激な低下を

防止すべく配慮したものということができ,

その他本件に現れた一切の事情を勘案しても,

本件改定に基づく生活扶助額の減額が被保護者世帯の

期待的利益の喪失を通じてその生活に看過し難い影響を

及ぼしたものとまで評価することはできないというべきである。

 

(3) 以上によれば,本件改定については,

前記1(4)①及び②のいずれの観点からも裁量権の範囲の逸脱又は

その濫用があるということはできない。

 

したがって,本件改定は,生活保護法3条又は

8条2項の規定に違反するものではないと解するのが相当である。

 

そして,本件改定に基づいてされた本件各決定にも,

これを違法と解すべき事情は認められない。

原審の判断は,正当として是認することができ,

論旨は採用することができない。

 

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