甲及び乙が連帯して損害賠償責任を負う場合に乙についてのみ過失相殺がされた場合
(平成11年1月29日最高裁)
事件番号 平成9(オ)2049
最高裁判所の見解
1 甲及び乙が一つの交通事故によってその被害者丙に対して
連帯して損害賠償責任を負う場合において、
乙の損害賠償責任についてのみ過失相殺がされ、
甲及び乙が賠償すべき損害額が異なることになることがある。
この場合、甲が損害の一部をてん補したときに、
そのてん補された額を乙が賠償すべき
損害額から控除することができるとすると、
次のような不合理な結果が生ずる。
すなわち、乙は、自己の責任を果たしていないにもかかわらず
右控除額だけ責任を免れることになるのに、
甲が無資力のためにその余の賠償をすることができない場合には、
乙が右控除後の額について賠償をしたとしても、
丙はてん補を受けるべき損害の
全額のてん補を受けることができないことになる。
また、前記の設例において、甲及び乙が共に
自賠責保険の被保険者である場合を考えると、
甲の自賠責保険に基づき損害の一部がてん補された場合に
右損害てん補額を乙が賠償すべき損害額から控除すると、
乙の自賠責保険に基づきてん補されるべき金額は
それだけ減少することになる。
その結果、本来は甲、乙の自賠責保険金額の合計額の限度で
被害者の損害全部をてん補することが可能な事故の場合であっても、
自賠責保険金による損害のてん補が不可能な事態が生じ得る。
以上の不合理な結果は、民法の定める不法行為法における
公平の理念に反するといわざるを得ない。
したがって、甲がしたてん補の額は丙がてん補を受けるべき
損害額から控除すべきであって、
控除後の残損害額が乙が賠償すべき損害額を下回ることにならない限り、
乙が賠償すべき損害額に影響しないものと解するのが相当である。
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