短期賃貸借解除請求の要件である抵当権者の損害の意義
(平成8年9月13日最高裁)
事件番号 平成7(オ)1346
最高裁判所の見解
民法三九五条ただし書にいう抵当権者に損害を及ぼすときとは、
原則として、抵当権者からの解除請求訴訟の
事実審口頭弁論終結時において、
抵当不動産の競売による売却価額が
同条本文の短期賃貸借の存在により下落し、
これに伴い抵当権者が履行遅滞の状態にある
被担保債権の弁済として受ける
配当等の額が減少するときをいうのであって、
右賃貸借の内容が賃料低廉、賃料前払、
敷金高額等の事由により通常よりも買受人に
不利益なものである場合又は抵当権者が物上代位により
賃料を被担保債権の弁済に充てることが
できない場合に限るものではないというべきである。
けだし、短期賃貸借の存在により抵当権者が被担保債権の
弁済として受ける配当等の額が減少する場合には、
右賃貸借の内容が通常よりも買受人に
不利益であるか否かを問わず、原則として
これを解除すべきものとするのが
民法三九五条の趣旨であると考えられ、また、
短期賃貸借が存在しない場合には抵当権者が
物上代位により被担保債権の弁済に充てるべき賃料が
もともと存在しないのであるから、抵当権者は、
短期賃貸借の賃料を被担保債権の弁済に充てることが
できないとしても、右賃貸借が存在しない場合よりも
不利益な地位に置かれるものではないからである。
四 なお、解除請求の対象である短期賃貸借の期間が
抵当権の実行としての競売による差押えの効力が生じた後に満了したため、
その更新を抵当権者に対抗することができなくなった場合であっても、
短期賃貸借解除請求訴訟の事実審口頭弁論終結時において
右賃貸借の存在により抵当不動産の競売における売却価額が下落し、
これに伴い抵当権者が被担保債権の弁済として受ける
配当等の額が減少するものである限りは、
抵当権設定者による抵当不動産の利用を
合理的な限度においてのみ許容するという
民法三九五条の趣旨にかんがみ、裁判所は、
右賃貸借の解除を命じるべきである。
そして、このことは、
差押えの効力発生後の右賃貸借の期間満了が
右訴訟の事実審口頭弁論終結の前後いずれに生じたかを問わず、
当てはまるものというべきである。
五 以上に基づき本件について検討するに、
原審の適法に確定した事実関係によれば、
原審口頭弁論終結時において本件短期賃貸借の存在により
本件土地建物の競売における売却価額が下落し、
これに伴い抵当権者である被上告人が被担保債権の弁済として
受ける配当等の額が減少するということができるから、
本件短期賃貸借は、抵当権者に損害を及ぼすものというべきである。
また、本件短期賃貸借は、本件建物について差押えの効力が
生じた後の平成七年六月一一日(本件上告の提起後であり、
原裁判所から当裁判所への事件送付前である。)に
期間が満了したため、その更新を抵当権者である
被上告人に対抗することができなくなったものであるが、
右の事情は、本件解除請求を妨げる事由に
当たらないものというべきである。
六 以上によれば、被上告人の本件短期賃貸借解除請求を
認容すべきものとした原判決の結論は正当である。
論旨は、原判決の結論に影響しない点をとらえてその違法をいうか、
又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、
採用することができない。
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