破産法93条,破産法95条,破産法204条,商法521条

(平成10年7月14日最高裁)

事件番号  平成7(オ)264

 

最高裁判所の見解

1 原審の適法に確定した前記事実関係によれば、上告人は、

本件手形の占有を適法に開始し、遅くとも破産会社が

銀行取引停止処分を受けた平成五年三月三一日には

本件手形に対して商事留置権を取得したものということができ、

これと同旨の原審の右1の判断は、正当として是認することができる。

 

そして、破産会社に対する同年四月一五日の破産宣告後は、

破産法九三条一項によって、右商事留置権が破産財団に対して

特別の先取特権とみなされることになる。

 

2 そこで、検討するに、破産財団に属する手形の上に

存在する商事留置権を有する者は、

破産宣告後においても右手形を留置する権能を有し、

破産管財人からの手形の返還請求を

拒むことができるものと解するのが相当である。

 

けだし、破産法九三条一項前段は、

「破産財団ニ属スル財産ノ上ニ存スル留置権ニシテ商法ニ依ルモノハ

破産財団ニ対シテハ之ヲ特別ノ先取特権ト看做ス」と定めるが、

「之ヲ特別ノ先取特権ト看做ス」という文言は、

当然には商事留置権者の有していた

留置権能を消滅させる意味であるとは解されず、

他に破産宣告によって右留置権能を

消滅させる旨の明文の規定は存在せず、

破産法九三条一項前段が商事留置権を特別の先取特権とみなして

優先弁済権を付与した趣旨に照らせば、

同項後段に定める他の特別の先取特権者に対する関係はともかく、

破産管財直ちに法律に定めた方法によらずに

右目的を処分することができるということはできない。

 

しかしながら、支払期日未到来の手形についてみた場合、

その換価方法は、民事執行法によれば原則として

執行官が支払期日に銀行を通じた

手形交換によって取り立てるものであるところ

(民事執行法一九二条、一三六条参照)、

銀行による取立ても手形交換によってされることが予定され、

いずれも手形交換制度という取立てをする者の裁量等の

介在する余地のない適正妥当な方法に

よるものである点で変わりがないといえる。

 

そうであれば、銀行が右のような手形について、

適法な占有権原を有し、かつ特別の先取特権に基づく

優先弁済権を有する場合には、銀行が自ら取り立てて

弁済に充当し得るとの趣旨の約定をすることには合理性があり、

本件約定書四条四項を右の趣旨の約定と解するとしても

必ずしも約定当事者の意思に反するものとはいえないし、

当該手形について、破産法九三条一項後段に定める

他の特別の先取特権のない限り、銀行が右のような処分等をしても

特段の弊害があるとも考え難い。

 

そして、原審の適法に確定した事実関係等によれば、

上告人は、手形交換によって本件手形を取り立てたもので、

本件手形について適法な占有権原を有し、

かつ特別の先取特権に基づく優先弁済権を有していたのであって、

その被担保債権は、本件手形の取立てがされた日には

既に履行期が到来し、その額は手形金額を超えており、

本件手形について上告人に優先する

他の特別の先取特権者が存在することをうかがわせる事情もないのである。

 

以上にかんがみれば、本件事実関係の下においては、

上告人は、本件約定書四条四項による合意に基づき、

本件手形を手形交換制度によって取り立てて破産会社に

対する債権の弁済に充当することができるのであり、

上告人の行為は、被上告人に対する不法行為となるものではない。

 

五 以上と異なる原審の判断には、

法令の解釈適用を誤った違法があるというべきであり、

この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

 

論旨は、この趣旨をいうものとして理由があり、

その余の論旨について判断するまでもなく、

原判決は破棄を免れない。

 

そして、前記説示に徴すれば、不法行為に基づく損害賠償を求める

被上告人の本訴請求は理由がなく、

被上告人の本訴請求を棄却した第一審判決は正当であるから、

被上告人の控訴を棄却すべきである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

判例をわかりやすく解説コーナー


スポンサードリンク