破産管財人が破産法59条1項に基づく解除権を行使することができない場合

(平成12年2月29日最高裁)

事件番号  平成8(オ)2224

 

最高裁判所の見解

事実関係によれば、上告人と本件ゴルフクラブの会員との間の契約関係は、

いわゆる預託金会員制ゴルフクラブの会員契約であるということができる。

 

右会員契約は、会員となろうとする者が入会に際して

所定の預託金を払い込み(会員は、会則等に定める

一定の据置期間が経過した後には退会に

伴って預託金の返還を請求することができる。)、

ゴルフ場経営会社が将来に向かってゴルフ場施設を

利用可能な状態に保持し、会則に従って

これを会員に利用させることをその主たる内容としているものである

(預託金を支払って会員となった者は、

ゴルフクラブの会員としての資格を有している限り、

会則に従ってゴルフ場施設を利用する権利を有する。)。

 

さらに、会員には所定の年会費の

支払義務がある旨会則等に定められることもあるが、

このような場合には、会員の年会費支払義務も会員契約の一内容となっている。

 

以上によれば、預託金会員制ゴルフクラブの会員契約は、

主として預託金の支払とゴルフ場施設利用権の取得が

対価性を有する双務契約であり

(会員に年会費の支払義務がある場合には、

年会費の支払も対価関係の一部となり得る。)、

その会員が破産した場合、会員に年会費の支払義務がある

ゴルフクラブにおいては、ゴルフ場施設を利用可能な状態に保持し、

これを会員に利用させるゴルフ場経営会社の義務と、

年会費を支払う会員の義務とが破産法五九条一項にいう

双方の未履行債務になるということができる。

 

2 破産法五九条一項が破産宣告当時双務契約の

当事者双方に未履行の債務がある場合に破産管財人が

契約を解除することができるとしているのは、

契約当事者双方の公平を図りつつ、破産手続の迅速な

終結を図るためであると解される。

 

そうすると、破産宣告当時双務契約の当事者双方に

未履行の債務が存在していても、契約を解除することによって

相手方に著しく不公平な状況が生じるような場合には、

破産管財人は同項に基づく解除権を行使することができないというべきである。

 

この場合において、相手方に著しく不公平な状況が生じるかどうかは、

解除によって契約当事者双方が原状回復等として

すべきことになる給付内容が均衡しているかどうか、

破産法六〇条等の規定により相手方の不利益が

どの程度回復されるか、破産者の側の未履行債務が

双務契約において本質的・中核的なものかそれとも

付随的なものにすぎないかなどの

諸般の事情を総合的に考慮して決すべきである。

 

3 そこで、被上告人が本件会員契約を

解除することにより上告人に著しく不公平な

状況が生じるかどうかについて検討する。

 

いわゆる預託金会員制ゴルフクラブの諸施設の整備は、

通常は多数の会員から利払いの負担のない資金を

調達することによって可能になるという経済的な実態が

あることは公知の事実であり、右実態にかんがみると、

右会員契約関係においては、

会員となろうとする者が預託金を払い込むことにより

会員資格を取得し、ゴルフ場施設利用権を有するに至ることが

その基本的な部分を構成するものであるということができる

(最高裁平成三年(オ)第七七一号同七年九月五日第三小法廷判決・

民集四九巻八号二七三三頁参照)。

 

預託金会員制ゴルフクラブの会員が破産した場合、

これを理由にその破産管財人が破産者の会員契約を解除できるとすると、

ゴルフ場経営会社は、他の会員との関係から

ゴルフ場施設を常に利用し得る状態にしておかなければならない状況には

何ら変化がないにもかかわらず、

本来一定期間を経過した後に返還することで足りたはずであり、

しかも、当初からゴルフ場施設の整備に

充てられることが予定されていた預託金全額の

即時返還を強いられる結果となる

(解除が預託金の据置期間満了日に近い時期にされたとしても、

預託金のように多額の金銭を予定外の時期に

調達しなければならない負担がゴルフ場経営会社にとって

多大なものであることは明らかである。)。

 

殊に本件のようにゴルフ会員権の市場での売却が

困難なゴルフクラブにおいては(この点は記録上明らかである。)、

多数の会員のうちの一人が会員資格を失うことにより

ゴルフ場経営会社に発生する負担は一層大きい。

 

その一方で、破産財団の側ではゴルフ場施設利用権を失うだけであり、

殊更解除に伴う財産的な出捐を要しないのであって、

甚だ両者の均衡を失しているといわざるを得ない。

 

ゴルフ場経営会社が、会員契約の解除によって生じる

右のような著しい不利益を損害賠償請求権として構成し、

これを破産法六〇条により破産債権として行使することで回復することは、

通常は困難であるというべきである。

 

また、会員契約の成立により、会員は所定の

年会費の支払義務を負うこともあるが、

その場合でも一般に年会費の額は預託金の額に比べると極めて少額であり、

ゴルフクラブによっては会員に

年会費の支払義務がない例があることも公知の事実である。

 

そうすると、本件会員契約のように会員に

年会費の支払義務がある場合においても、その義務は、

会員契約の本質的・中核的なものではなく、付随的なものにすぎない。

 

そして、破産管財人としては破産手続を迅速に処理する必要があるから、

破産財団が有するゴルフ会員権は、通常破産管財人が

これを市場で(市場性のない場合は個別に)換価することになるのであるが、

市場における当該ゴルフ会員権の価値が預託金の額より

低額である場合に、破産法五九条一項による解除権を行使することによって、

価値の低いゴルフ会員権を失う対価として

預託金全額の即時返還を請求し得るとするならば、

著しく不当な事態を肯定することになるといわざるを得ない。

 

なお、破産管財人としては破産財団の減少を防ぐために

年会費の支払を免れる必要があるが、

そのためには本件会員契約を解除しなくても、

会則の定めに従って退会の手続を執れば足りるのである。

 

これらにかんがみると、被上告人が本件会員契約を解除するときは、

これにより上告人に著しく不公平な状況が生じるということができるから、

被上告人は、破産法五九条一項により

本件会員契約を解除することができないというべきである。

 

四 以上によれば、被上告人による

本件会員契約の解除を認めた原審の判断には、

破産法五九条一項の解釈適用及び本件預託金会員制ゴルフクラブにおける

会員契約の解釈を誤った違法があり、

右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

 

論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、

原判決は破棄を免れない。

 

そして、以上説示したところによれば、

被上告人の請求は理由がないから、

第一審判決を取り消した上、被上告人の請求を棄却すべきである。

 

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