窃盗の犯人による事後の脅迫
(平成16年12月10日最高裁)
事件番号 平成16(あ)92
この裁判は、
窃盗の犯人による事後の脅迫が窃盗の機会の継続中に
行われたとはいえないとされた事例です。
最高裁判所の見解
(1) 被告人は,金品窃取の目的で,
平成15年1月27日午後0時50分ころ,
A方住宅に,1階居間の無施錠の掃き出し窓から侵入し,
同居間で現金等の入った財布及び封筒を窃取し,
侵入の数分後に玄関扉の施錠を外して戸外に出て,
だれからも発見,追跡されることなく,
自転車で約1km離れた公園に向かった。
(2) 被告人は,同公園で盗んだ現金を数えたが,
3万円余りしかなかったため少ないと考え,
再度A方に盗みに入ることにして自転車で引き返し,
午後1時20分ころ,同人方玄関の扉を開けたところ,
室内に家人がいると気付き,扉を閉めて門扉外の駐車場に出たが,
帰宅していた家人のBに発見され,逮捕を免れるため,
ポケットからボウイナイフを取り出し,Bに刃先を示し,
左右に振って近付き,Bがひるんで後退したすきを見て逃走した。
2 原判決は,以上の事実関係の下で,被告人が,
盗品をポケットに入れたまま,当初の窃盗の目的を達成するため
約30分後に同じ家に引き返したこと,家人は,
被告人が玄関を開け閉めした時点で泥棒に入られたことに気付き,
これを追ったものであることを理由に,
被告人の上記脅迫は,窃盗の機会継続中のものというべきであると判断し,
被告人に事後強盗罪の成立を認めた。
3 しかしながら,上記事実によれば,被告人は,
財布等を窃取した後,だれからも発見,追跡されることなく,
いったん犯行現場を離れ,ある程度の時間を過ごしており,
この間に,被告人が被害者等から容易に発見されて,
財物を取り返され,あるいは逮捕され得る状況は
なくなったものというべきである。そうすると,
被告人が,その後に,再度窃盗をする目的で犯行現場に戻ったとしても,
その際に行われた上記脅迫が,窃盗の機会の継続中に
行われたものということはできない。
したがって,被告人に事後強盗罪の成立を認めた原判決は,
事実を誤認して法令の解釈適用を誤ったものであり,
これが判決に影響することは明らかであって,
原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
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