自動車の所有権取得の準拠法

(平成14年10月29日最高裁)

事件番号  平成12(受)612

 

最高裁判所の見解

(1) 自動車の所有権取得の準拠法について

ア 法例10条2項は,動産及び不動産に関する物権の得喪は

その原因たる事実が完成した当時における

目的物の所在地法によると規定しているが,

これは,物権のように物の排他的な支配を目的とする

権利の得喪はその原因事実が完成した当時における

目的物の所在地国等の利害と密接な関係を有することによるものと解される

(最高裁昭和50年(オ)第347号同53年4月20日第一小法廷判決・

民集32巻3号616頁参照)。

 

そうすると,目的物が有体物であるときは,同項にいう所在地法は,

その物理的な所在地を準拠法選択の連結点とすることに

支障があるなどの場合を除き,その物理的な

所在地の法をいうものと解するのが相当である。

 

イ 自動車の所有権の取得についてこれを検討する。

自動車は,一たび運行の用に供し得るようになると,

国境を越えて広範囲に動き回ることが

できるようになるという特質を有する動産であり,

多くの国又は地域においては権限ある当局に車両の登録をする等

所定の要件を満たすことによって初めて運行の用に供し得るようになるものである

(道路交通に関する条約参照)。

 

他方,自動車が国際的な取引の対象になる場合,

新車については未登録の状態で,中古車については従前の登録が抹消された状態で,

すなわちそのままでは運行の用に供し得ない状態で流通することがある。

このように,自動車には,その性質上,運行の用に供され

広範囲に移動することが可能な状態のものと,

そのような状態にないものの2種類があることになる。

 

自動車が広範囲な運行の用に供されており,

その物理的な所在地が変動している場合に,

自動車の物理的な所在地を基準として準拠法を決めようとすると,

当該自動車の移動とともに準拠法が変動することになり,また,

特定の時点における当該自動車の物理的な所在地を

確定することにも困難が伴うことがあるため,

準拠法の決定が不安定になるという不都合が生ずる。

 

このように自動車についての権利の得喪とその所在地国等の利害との

関連性が希薄になっているといえる場合には,

当該自動車が利用の過程でたまたま物理的に所在している

地の法を準拠法とするよりも,その利用の本拠地の法を

当該自動車の所在地法として,これを準拠法とするほうが妥当である。

 

このような運行の用に供し得る自動車が取引の対象になっている場合,

買主はその自動車の登録や管理の状況など

当該自動車の本拠地を知るための情報を

容易に得ることができるはずであるから,

当該自動車が利用の過程でたまたま物理的に所在している

地の法を準拠法とするよりも,

利用の本拠地の法を準拠法とするほうが,

買主にとっての法的透明性がより高く,

取引の安全に資することになる。

 

他方,運行の用に供し得ない状態で取引の対象とされている自動車については,

利用の本拠地がなく,権利の得喪は

その原因事実が完成した当時における目的物の

所在地国等の利害と密接な関係を有する上,

その時点における物理的な所在地を確定する困難もない。

 

また,このような自動車のうち,輸入国で新規登録をして

運行の用に供することを前提に,

登録がないものとして取引の対象とされているが,

実際には他国で登録されていたという

本件自動車のようなものについては,

登録地法等物理的な所在地の法以外を準拠法とすると,

取引に関与する者にとっては,いかなる地の法が

準拠法になるのかを取引時には容易に知り得ないことがある。

 

このような事態は,国際的取引に関与する者が

自己の取引に影響を及ぼす可能性の大きい準拠法選択を明確に予測し,

それに応じた対応をあらかじめとることができるように

すべきであるという要請に反し,国際私法の観点からの

取引の安全を著しく害するものであるといわなければならない。

 

したがって,権利の得喪の原因事実が完成した当時において

運行の用に供し得ない状態の自動車については,

一般の動産と同様に,当該自動車が他国の仕向地への

輸送の途中であり物理的な所在地の法を準拠法とするのに

支障があるなどの事情がない限りは,

物理的な所在地の法を準拠法とすることが妥当である。

 

ウ 以上によれば,自動車の所有権取得の準拠法を定める基準となる

法例10条2項にいう所在地法とは,

権利の得喪の原因事実が完成した当時において,当該自動車が,

運行の用に供し得る状態のものである場合には

その利用の本拠地の法,運行の用に供し得る状態にない場合には,

他国への輸送の途中であるなどの事情がない限り,

物理的な所在地の法をいうと解するのが相当である。

 

(2) 本件自動車の所有権取得の準拠法について

本件についてこれをみると,上告人は,

Eから上告人に至るまでの本件自動車の取得者の全部又は

いずれかがこれを即時取得したと主張しているところ,

即時取得における所有権取得の原因事実の完成時は,

買主が本件自動車の占有を取得した時点である。

 

そして,前記認定事実によれば,E,G,H工業所及び

Iの本件自動車の所有権取得については,

それらの者が本件自動車の占有を取得した時点において,

本件自動車が,ドイツにおいては形式的に登録が残っていても,

運行の用に供し得る状態になかったことは明らかであるから,

本件自動車の所有権取得の準拠法は,

本件自動車の各占有取得時におけるその物理的な所在地の法である

我が国の法であり,J,K及び上告人の所有権取得については,

同人らが本件自動車の占有を取得した時点においては,

Iが既に本件自動車を道路運送車両法に基づいて新規登録し,

運行の用に供し得る状態になっていたから,

その準拠法は,本件自動車の各占有取得時における

その利用の本拠地であることが明らかな我が国の法によるというべきである。

 

(3) 我が国の民法による本件自動車の所有権取得の成否について

民法192条にいう善意無過失とは,動産の占有を始めた者において,

取引の相手方がその動産につき無権利者でないと誤信し,

かつこのように信ずるについて過失のなかったことを意味し,

その動産が盗品である場合においてもそれ以上の要件を

必要とするものではない

(最高裁昭和24年(オ)第106号同26年11月27日

第三小法廷判決・民集5巻13号775頁参照)。

 

また,譲受人である占有取得者が上記のように信ずるについては,

過失がないものと推定され,占有取得者自身において

過失がないことを立証することを要しない

(最高裁昭和39年(オ)第550号同41年6月9日

第一小法廷判決・民集20巻5号1011頁参照)。

 

原審は,未登録の外国車の取引については,

譲受人が,自動車販売業者であっても,

Iのような一般の消費者であっても,

車両証書等外国の製造者又は真正な前所有者による

権利確認書の提示ないし写しの交付を伴う譲渡証明書等,

あるいはこれを確認した旨の国内業者の信頼し得る証明書等を

取引時に確認しない限り,譲受人に過失があるとしている。

 

しかしながら,輸入車の取引について実務上必ずそのような書面の交付及び

確認が伴うことは記録上立証されていないし,

現に輸入車について道路運送車両法に基づく新規登録をする際には,

申請者が真正の所有者であることが登録取扱い官署における

職権調査事項であるにもかかわらず(同法8条1号参照),

そのような書類の提出までは必要とされていないことがうかがわれる。

 

そのような状況の下において,

盗品を扱っている業者であるとの

不審を抱かせるような事情が記録上何ら

認められない業者であるH工業所から,

個人消費者であるIが本件自動車を購入する際に,

新規登録に必要な適式の書類はすべて整っているのに,

上記のように最後の登録国(しかも,

それがいずれの国又は地域であるか,

書類上及び本件自動車の外形上不明である。)における

所有関係を証する書面の存在を確認していないから

同人に過失があるという判断は,

中古車取引に不必要な危険をもたらし,

取引の安全を著しく阻害するものであるといわざるを得ない。

 

さらに,本件において,Iが無過失であることを覆すに足りる

その他の事実について主張立証がないことは,記録上明らかである。

 

そうすると,Iは即時取得により本件自動車の所有権を取得し,

被上告人は本件自動車の所有権を失ったというべきであり,

その後の上告人へ至る取得者は,いずれもIが

取得した本件自動車の所有権を承継取得したことになり,

この間に被上告人の所有権の回復を認めるべき事情もないから,

本件自動車の所有権に基づく被上告人の請求は理由がない。

 

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